220年、真似しない真似されない いなば食品が守り続ける独創のDNA

220年、真似しない真似されない いなば食品が守り続ける独創のDNA

2026年2月3日の朝、朝日新聞を開いた読者は、見開き全面に広がる大きな広告に目を留めたはずだ。

 

左に江戸時代の創業風景、右に最新鋭の工場。二つの時代を一枚に収めたその紙面の中心には、「独創と挑戦」の四文字があった。

 

掲載したのは、創業220周年を迎えたいなば食品。200年を超える老舗が、いま改めて世に問うたメッセージとは何だったのか。

1805年、由比の海から

いなば食品の歴史は、江戸後期の1805年に始まる。稲葉与吉・嘉助の父子が、静岡・由比で海産物を商い始めたのが原点だ。

 

1837年には鰹節の製造に着手。明治から大正にかけては、静岡特産のみかんをカナダへ輸出するなど、早くから海外にも目を向けていた。

 

1936年に稲葉缶詰所を創業し、1948年に稲葉食品株式会社を設立。海産物商から缶詰メーカーへと、事業は形を変えていった。

 

時代ごとに姿を変えながら、海の恵みを扱うという軸だけは動かさない。その柔軟さと一貫性の両立が、200年続いた理由である。

ライトツナが変えた日本の食卓

同社を語るうえで欠かせないのが、1971年発売の「いなばライトツナ」だ。食べやすく、油がしみ込みやすいフレーク状のツナ缶として開発された。

 

それまでのツナ缶のあり方を変え、その後の市場がフレーク状へと移っていく先導役となった。業界全体の標準を動かした製品である。

 

一九九一年にはDHAを添加した商品を投入するなど、健康志向にも早くから対応してきた。定番に安住しない姿勢が見える。

 

一つの缶詰が、日本の家庭の食卓を静かに塗り替えた。独創は、いつも具体的な商品の形でやってくる。

「真似しない、真似されない」の意味

220周年広告の紙面に刻まれたのが、「真似しない、真似されない」という言葉だった。同社の企業文化を象徴するフレーズである。

 

他社の後追いをしない。そして、簡単には真似のできない独自の価値を生み出す。短い言葉に、老舗の矜持が凝縮されている。

 

広告の全容は、いなば食品のプレスリリース で公開されている。伝統企業が貫く「独創のDNA」を表現した内容だ。

 

守りに入らず、攻め続ける。200年の重みを、停滞ではなく前進の燃料に変えている点が興味深い。

ちゅ〜るに見る独創の系譜

独創のDNAは、ペットフードでも発揮されてきた。2012年に発売された「CIAOちゅ〜る」は、その代表例だ。

 

ペースト状のおやつをスティックから直接与えるという新しいスタイルは、猫との暮らし方そのものに影響を与えた。

 

犬向けの「Wanちゅ〜る」も加わり、シリーズは世界へ広がった。一九五八年から続くペットフードづくりの蓄積が結実した形である。

 

ツナ缶でもちゅ〜るでも、共通するのは「最初にやる」という発想だ。真似されても先行者であり続ける、その積み重ねがブランドを作る。

安全を支える「天然・自然・本物」

独創を支える土台にあるのが、「天然・自然・本物・安全・環境」という基本方針だ。創業以来掲げ続けてきた価値観である。

 

食品における化学物質の無添加、無着色、保存料や殺菌剤の不使用を徹底してきたという。新しさと安全を両立させる姿勢だ。

 

その理念は、いなば食品の企業理念ページ にまとめられている。環境配慮として、容器の紙化やリサイクル化も進めているとする。

 

奇をてらうだけが独創ではない。安全という当たり前を守り抜くこともまた、簡単に真似できない強みになる。

世界が認めた日本のブランド

独創の積み重ねは、国際的な評価にもつながった。2018年、「CIAO」ブランドがWorld Branding Awardsの「ブランドオブイヤー」を受賞している。

 

海外展開も2004年の中国・青島を皮切りに、タイ、韓国、インドへと広がった。日本発の商品が、各国の家庭に入り込んでいる。

 

2022年には、グループ全体の売上高が初めて一千億円を突破した。老舗の独創が、世界市場で結果を出している。

 

真似されない価値は、国境を越えても通用する。由比から始まった物語は、いまや世界規模になっている。

二つの時代を一枚に収めた理由

220周年広告が江戸の創業風景と最新鋭の工場を並べたのには、明確な意図がある。伝統と革新は対立しない、という宣言だ。

 

過去を懐かしむための広告ではない。200年の歴史を、これから挑む未来への助走として描いている。

 

だからこそ中心の言葉は「独創と挑戦」だった。守るべきものと、変えていくものを、同じ紙面に共存させたのである。

 

老舗の広告でありながら、視線はまっすぐ前を向いている。その姿勢こそ、二百二十年を生き抜いた企業の答えだ。

次の挑戦へ

いなば食品は、2031年に連結売上高一兆円という目標を掲げる。ペットフード事業では世界トップ3入りを見据えている。

 

その先の2038年には、二兆四千億円という数字も示す。二220年で築いた基盤の上に、さらに大きな挑戦を重ねていく構えだ。

 

「真似しない、真似されない」。この言葉は、過去の総括であると同時に、未来への約束でもある。

 

由比の海から始まった独創のDNAは、次の200年へと受け継がれていく。