こんにちは、編集長のえとみほです。
東京五輪のエンブレムに端を発したアートディレクター佐野研二郎氏の過去の作品に対する、盗用疑惑問題。事態は鎮火するどころか周囲に飛び火してさらなる炎上の兆しを見せていますが、こういう事件があるたびに毎度毎度思うことがあるのです。
「っていうか、アンタたちよく見つけたね」
と。えとみほはオールド・インターネットユーザーなので、黎明期から2ちゃんねるを見ているのですが、もはやすっかりお茶の間にも定着した「鬼女(きじょ・既婚女性板の住人)」の皆さんを筆頭に、彼ら2ちゃんねらーの”特定能力”は目を見張るものがあります。
そこで私、急遽ご本人たちに直接話を聞いてまいりました。いったいどうやって取材対象者を探してきたかって?それはナイショです(笑)。
※今回はお二方とも遠方にお住まいの方でしたので、Skypeにてインタビューを行っております。
画像解析技術の進化でパクリ画像の特定はカンタンに
えとみほ:お忙しいところありがとうございます!本当は、特定活動全般についていろいろ聞きたいんですが、今回は巷を賑わせている「ネット上の画像の無断転用」についてお話しいただければと…。ちなみに、お二人は活動始めて長いんですか?
Aさん:うーん、「JOY祭り(※)」のあたりからなのでかれこれ10年くらいですかね。
※JOY祭り…2ちゃんねる史に残る大炎上事件。詳細はこちら。
Bさん:自分もそれくらいですね。
えとみほ:いまあちこちで画像の無断転用が問題になっていますが、こういうことってよくあるんでしょうか?
Aさん:あります、あります。pixivなんかだと「トレパク(※)」専用カテゴリもありますし。
※トレパク…トレース、パクリ(盗作)の俗称。
Bさん:昔からいっぱいありましたよ。でも、いままでは見つかってなかったケースが多かったんじゃないかな。10年くらい前だと、いまほどネットやってる人も多くなかったし。
Aさん:そう。昔は文章のコピペはすぐ見つけられたけど、画像は難しかったんですよ。でも、Google画像検索の精度が上がってきてからはカンタンにわかるようになっちゃって。
えとみほ:Google画像検索。
Bさん:Googleに画像を直接アップするか、URLを指定して類似する画像を検索する機能があって。これが、けっこう精度高いんですよね。
Aさん:いままさに炎上中の「ビーチサイン」の元ネタも、Google画像検索でサーチしたら一発で出てきましたよ。
えとみほ:え、ほんとですか?!(検索してみる)…ほんとだ!!
Aさん:これ、縮尺も向きも何も変えてないんで、すぐヒットしました。他のやつはちょっといじってるみたいですけどね。
Bさん:いじっても、反転くらいじゃダメだよね。TinEyeとか使えばすぐバレるし。
えとみほ:ティンアイ?
Bさん:画像の元ネタを検索するサイトですよ。もうずっと前から定番ツール化しています。ブラウザの拡張機能に入れておけば、いちいち検索サイトに飛ばなくても、画像右クリックして「Search Image on TinEye」でサクっと調べられるんで便利ですよ。
※編集部注:TinEyeを「反転画像を検索するサイト」と紹介しておりましたが、正しくは「反転画像も検索できる、画像の元情報を検索するサイト」となります。
Aさん:あと、最近はPinterestもありますね。
えとみほ:あぁ!Pinterestは確かに。使えそうですね。
Aさん:Pinterestでは自分がリピンした画像に似ている画像を自動的にサジェスト(提案)してくれるんですけど、これがけっこう優秀で。ここからポロっと元ネタが見つかることもあります。おもに海外のサイトからの転用に限りますけど。
えとみほ:なるほど〜、最近はこんな感じで機械的に探せるんですね。悪いことはできないですね。
Bさん:はい。(探すほうは)だいぶラクになりましたね(笑)。
決め手になるのは色味と輪郭
えとみほ:先ほど「ちょっとした改変程度では簡単にバレる」とおっしゃいましたが、具体的にはバレるバレないの境界線ってどこにあるんでしょうか?
Bさん:機械的に判別する場合は、やっぱり輪郭と色味じゃないですかね。
Aさん:縦横比変えてあるとヒットしづらいっていうのはあります。
Bさん:よくプライバシーに配慮して目線入れたり、一部にぼかし入れた写真使ったりする場合があるじゃないですか。でもあれも、元の画像がネットにあがってたらぜんぜん意味ないんですよね。
えとみほ:え?というと?
Bさん:顔の一部だけ隠しても、画像検索したら元の写真が出てきたりするので。とくにSNSに公開モードで写真アップしてる人は気をつけたほうがいいですね。
Aさん:そうですね。だいたいネットで騒動になって、身元バレするのはそのパターンが多い。
Bさん:うん、SNSはネタの宝庫。メアドさえわかっちゃえば、芋づる式に他のSNSの情報も出てくるし。
えとみほ:怖い世の中ですね…。
具体的な検証の仕方
えとみほ:ちなみに、「似てるなぁ」っていう画像を見つけたら具体的にどうするんですか?
Aさん:まず画像を保存して、隣りに並べてみます。これでだいたい盗用かどうかわかるんですが、検証用画像を作るときは、片方の画像を半透明の状態にして、もう一方の画像に重ねてみせます。
Bさん:イラストのトレパク検証なんかだと、青と赤とか、色を変えて重ねるとわかりやすいよね。
Aさん:そうですね。画像のパクリからはちょっと話それますが、人物特定の場合は身体的特徴の部分を切り取ってその部分だけ検証するとか。
Bさん:ほくろ、耳の形、歯の形、目の幅、傷跡…とかね。人の顔って加齢でけっこう変わるけど、変わらないところも必ずあるので。
Aさん:あと、何であれ魚拓(※)は絶対とりますね。検証作業する前に。
※魚拓…「ウェブ魚拓」のこと。ウェブのアーカイブを作成するサービス。
Bさん:あ、それは鉄則ですね。パクる側だけでなくパクられる側も、騒動が大きくなるとびっくりしてコンテンツ消しちゃったりするんで。
「パクる側の立場に立って」検索してみる
えとみほ:お二人に教わった方法でいまいくつか画像検索してみましたが、画像検索だけだとそのものズバリの元ネタが出てこない場合もありますよね?
Aさん:そうですね。むしろそのほうが多いかもしれません。
Bさん:そういう場合は、今回の一件のようにすでにモチーフになっている素材が何かわかっている場合は、「自分がパクる側だったらどういう動きをするだろう?」ということを考えます。
えとみほ:というと?
Bさん:たとえば今回のようにパンをモチーフにしたデザインの場合、その素材をネットで探すわけですよね。おそらく、頭の中にはすでに「パンを使いたい」っていう構想はあるわけですから。
えとみほ:そうですね。
Bさん:そしたら、普通の人ならたぶんGoogleとかFlickrとかの画像検索で「パン」とか「フランスパン」とか「バゲット」とか、調べますよね。
えとみほ:そうですね。
Bさん:で、調べたらいっぱい画像が出てくると思うんですけど、ここで「転用されやすい素材」に絞り込みます。
えとみほ:というと?
Bさん:今回の場合、ウェブに使うのではなく「印刷」に使う素材が必要になるので、解像度が高いものしか使うことができないですよね。だから画像検索の段階で、画像サイズを「大」に絞り込む、と。
えとみほ:なるほど!
Bさん:そうすると、かなり数が絞り込めますよね。あともう1つ転用されやすいの画像の特徴があるんですけど、なんだと思います?
えとみほ:うーん、なんでしょう?
Bさん:背景が抜けている画像です。とくに今回のような用途の場合は、パン単体で背景がすでに抜けているか、もしくは背景色が単一色で切り抜きやすいものがいいんですよね。面倒くさくなくて。
えとみほ:なるほど!!
Bさん:ちなみに今回の騒動のネタになったフランスパンは、類似画像サーチでは出てこなかったんですが、Googleの画像検索で「バゲット」「画像サイズ大」で絞り込むと出てきました。第一発見者がどうやって発見したかは本人に聞かないとわかりませんが、おそらくこんな感じで探したんじゃないかと…。
Aさん:私もやりますね、これは。
人海戦術に勝るものなし
えとみほ:あのー、聞けば聞くほど「この人たちを敵に回したくないなぁ」と思うのですが…(苦笑)
Aさん:いえいえ「特定班」なんて言われてますけど、とりたてて特殊技能があるわけではないんですよ。
Bさん:そう。その辺にゴロゴロしてる、みんな”普通の人”だと思いますよ。ただ怖いのは、その母数がどんどん増えていっているというところで。
Aさん:ですね。10年前に比べるとかなり増えてると思います。なにか事件があって、いざ「特定しよう」「元ネタを探そう」となったときに、今日話したようなツールを使うっていう方法もあるんですけど、それじゃどうしようもないことのほうが多いですから。
Bさん:最後は人海戦術ですよね。人が多ければ多いほど「これ、どっかで見たな…」とか「これ知ってる!」っていう人が出てくる可能性も高くなりますから。
Aさん:集合知ですよね。私も自分でやってて言うの変ですけど、絶対敵に回したくないです(笑)
特定班の正体はどこにでもいる”普通の人”たち
まとめます。今回のインタビューでとくに印象に残ったのは、いわゆる「特定班」「鬼女」と呼ばれる人たちが、彼らの言葉を借りるなら「とくに特殊な技能を持っているわけでもない、その辺にいる普通の人々」であるということです。
実際に今回インタビューした二人も、いわゆる2ちゃんねる的にいう「おまえら(引きこもりニート)」のイメージとは懸け離れた、健全な雰囲気を持った人たちでした。
当然のことながら「なんでこんな普通の人たちが…?」と疑問に思いましたが、今回は「転用画像の探し方についてのみ」という条件付きのインタビューだったので、そこまで踏み込むことはしませんでした。
機会があればぜひ、彼らの胸の内も聞いてみたいものです。