2018年11月24日(土)に、渋谷を舞台としたクリエイター・デザイナーのためのデザインフェスティバル「Design Scramble(以下:デザインスクランブル)」が開催されました。
デザインスクランブルは、渋谷にある参加企業のオフィスを会場に、クリエイターと企業が業界を超えて交差する今年初開催となるフェスティバルです。
IT・デザイン・ファッション・メディアアート・飲食…と、業界の垣根を超え繋がった様々な企業・約20社が企画したトークショーやイベントを楽しみながら、1日を通してデザインに触れ合うことができるイベント。
今回、kakeru編集部では株式会社DeNAを会場に株式会社CampとBASE株式会社の2社によるトークセッション・「ネットがリアルをつなぐ、クリエイターのための個人商店入門レポート」をお届けします。
フリマアプリやハンドメイドマーケットのような売買ができるモール型サービスや、BASEのような誰でも簡単に無料でネットショップが作成できるサービスの台頭により、誰もがインターネット上でモノを売ることが珍しくない時代。
「自身の作品をいかに販売するか?」というクリエイターにとっての最大の課題を、それらのサービスは叶えやすくしています。ネットとリアルで商いをしていくうえで知っておきたいノウハウや成功事例を紹介していきます。
■登壇サービス
株式会社Camp
編集+場づくりのユニットCamp。
「場の編集」をコンセプトに、マーケットイベントに留まらず、作家性の高いWEBコンテンツの制作やオリジナルアイテムの制作、作家のマネージメントなど多岐にわたる。
スピーカー:取締役 新田晋也
BASE株式会社
Eコマースプラットフォーム「BASE」、オンライン決済サービス「PAY.JP」※、ID型決済サービス「PAY ID」※の企画・開発・運営を行う。なかでも「BASE」は、ものづくりを行う個人、ビジネスを展開する法人、地方自治体をはじめとする行政など、さまざまな方が利用しているネットショップ作成サービス。※100%子会社のPAY株式会社が提供するサービスです。
スピーカー:
執行役員 / 新規事業開発マネージャー 岸本康希
BASE Business Division 宮本順一
個人クリエイターのネットショップ開設の背景には、働く環境の多様化
株式会社Camp取締役:新田晋也
株式会社Camp取締役 新田晋也(以下、新田)本日はよろしくお願い致します。簡単に僕の自己紹介ですが、株式会社Campの取締役をやってまして、そこでは本やWEB・場所など様々な媒体を編集するキュレーションを事業としています。最近では、 渋谷キャストで開催している「渋谷デザイナーズマーケット」や渋谷ストリームで開催している「渋南マーケット」の企画・キュレーションを行なっています。ここではBASEなどに出店されているクリエイターさんたちに多数出店いただいてます。
BASE株式会社 執行役員 岸本康希(以下、岸本):BASEは、「お母さんも使える」をコンセプトに、誰でもカンタンにネットショップがつくれるように設計したネットショップ作成サービスです。
2012年に当時22歳の鶴岡が立ち上げ、2018年には、400万ダウンロード・60万ショップ開設を達成しました。最近では、香取慎吾さんを起用したTVCMも行なっています。
写真右)執行役員 / BASE Business Division 新規事業開発マネージャー 岸本康希
写真左)BASE株式会社 BASE Business Division 宮本順一
新田:BASEは、「BASEライブ」としてライブコマース機能のリリースや、Instagramのショッピング機能をいち早く導入したり、「SNSを経由した個人間の売買」の時代の流れにいち早く対応していますよね!Instagramショッピング機能の導入は国内でも最速で驚きました。
岸本:ありがとうございます。BASEでは農家の方の野菜からアクセサリーまで様々なショップが開設されています。クリエイターやオーナーさんが創作活動をしていく際、「自身の作品をいかに販売するか?」というのは大きな課題でした。BASEでのショップ開設によって、様々な方がその道で独立されたり、会社員の傍らクリエイター活動をされたりと広がりや働く選択肢を増やしたいと思っています。
新田:私はもともとiichiというハンドメイドのマーケットプレイサービスの運営に関わっていたのですが、その時に様々なクリエイターの方とお会いしていました。
BASEやiichiなど、個人のネットショップサービスの需要の背景のひとつには、「働き方が多様化している」「働き方を選択できる時代になった」ということがあるかと思います。
多くの企業で副業も徐々に認められやすくなっている時代ですし、こうした働き方はますます広がっていきそうですよね。実際に、私がお会いしてきた方々の中から、そのような働き方を実践しているクリエイターさんをご紹介します。
ガラス作家の澤田 和香奈さんは、ガラス工房で職人として働きながら自身のガラス作品を制作し、ネットショップやイベントや委託販売などを行なっていました。現在は独立してフリーランスで活動しています。
工房で職人として自身の腕を磨くことができる環境は、おそらく澤田さん自身の作品にも良い影響があるのでは無いかと思います。
このように、職人から独立した方もいれば、オギーソニックさんは、旅するように各地を移動しながらデザイナーをやっています。日本中を旅しながらその土地でデザイン仕事をもらったりしながら生計を立てながら、自身でデザイン制作したTシャツやキャップなどを販売したり、友人の作品を集めてイベントを企画したりとマルチに、かつフレキシブルに活動しています。
また、web業界に属しながら陶芸家でもあるというクリエイターさんもいます。陶芸家の田中遼馬さんです。
自身の工房を持ち、人気の陶芸家としても活動していますがアートディレクターとしても定期的に仕事をされています。会社も田中 さんの働き方を認めていて、あくまでも陶芸家がメインで、会社にはたまに顔を出すというスタイルのようです。
また、こちらは個人クリエイターではないですが、社内ベンチャー的な活動が広がっていったパターン。kaene -花園-という福岡のオケージョンドレスの販売店です。もともと、衣料品OEMメーカーの中で自社ブランドとして細々と活動がはじまったのですが、、続けていく中でジワジワとファンが広がり、次第に会社の理解を得ることができて事業として確立しました。
自社工場というのリソースを活用した良い例です。
色々な環境に身を置きながらも、クリエイターの方々は各々実際働いて収益を得ながらも、どうモノづくりを続けていくか、よく工夫され、みなさん環境に合わせてうまくやっている、と思わせられます。こういった働き方は、個人のネットショップサービスが出てきた2012年辺りから現在まで積み重なってきて実績がでてきている印象です。
ネットショップサービスの選び方とSNSの活用法
新田:個人のクリエイターさんがネットショップをはじめようとした時に、BASEも含めて様々なサービスがありますが、なにを意識してサービスを選んだらよいのでしょうか?
宮本:そうですね。モール型のサービスも含めれば多岐にわたります。あくまで参考なのですが、予算で決めるのが良いと思います。ネットショップの開設にお金をかけられるのであれば、楽天やAmazonなどのモール型をおすすめしますね。これらは、モール自体が集客をしてくれます。
ただ、初期費用や月額費用がかかったり売上に応じた手数料や商品ジャンルに応じた料率がかかったりと高額になるケースもあることから、個人での出店には不向きです。デザインなども店舗ごとに柔軟に決められない場合もあるので、ブランディングも難しいです。
BASEやSTORES.jpのようなサービスはカート型なので、インデペンデントな感じで、ブランディングという面では適しています。
ですが、ショップ単体では集客がとても難しいです。集客に様々なSNSを使うなど、人的なリソースがかかります。課金のモデルも複数あり、月額固定費のものと手数料のものなど様々です。BASEは月額費は無料で、決済手数料をいただくモデルです。売り上げが多い(決済数が多い)と、結果的に他サービスでの固定費よりもコストが上回ることもありますが、そこは独自性を担保するためのブランディング費と捉えていただきたいです。
また、モール型とカート型のコスト感の違いは、ショップの予算や商品点数、平均販売単価や売上目標などを考慮して、どちらが良いかを決めるのが良いですね。
新田:モール型という選択肢もあるんですね。BASEなどカート型のショップは集客を自分たちで頑張らないといけないと思うのですが、BASEのオーナーさんはどういった外部サービスを使われている方が多いですか?
宮本:ジャンルによってバラツキはありますが、平均だとやはりInstagramからの集客が多いですね。食べ物のショップだとFacebook、エンタメ・ホビーはTwitterが多いといった傾向もあります。とはいえ、集客用のSNSは運営主が慣れているものを使うのがいいですね。使い方が上手な人のアカウントを見て勉強するのが一番です。
リアルイベントへの出店も欠かせない!ネットとリアルの導線を繋ぐには?
新田:まだ制作したモノを世に出していない方が多いかと思いますので、「世に出す」ということの基本的な分類をご説明します。ハンドメイドクリエイターを例にお伝えさせていただきますと、大きく3つの販売ケースに分けられます。1つがインターネット、2つ目が百貨店やショッピングモールでの出店、3つ目がフェスや野外イベントです。
対面での販売をさらに分類しますと、百貨店やショッピングモール・フェスやイベント・バイヤー向け合同展に分けられます。百貨店の場合は、場所代(手数料)がかなりの割合で掛かってきます。出店する土地や会社によってルールも様々ですが、クリエイターにとって百貨店での販売は昔から自身の略歴として”箔が付く”という意味で重要視されてきました。
ハンドメイドクリエイターが多数出店するイベントやフェスなどは近年増えてます。
”モノづくり”という意味では、個人と企業の活動の境目がどんどん薄くなってきているように感じます。
それで言うと、バイヤー向けの合同展は、文字通り法人向けの展示会なのでこれまで一般開放をほとんどしていませんでしたが、最近では個人でも入場できるようになってきました。
岸本:“簡単にネット上でお店が持てる時代だから”なのか、リアルでもお店を持ちたいというニーズも日々、高まっているのを感じています。
BASEは渋谷マルイで常設店舗「SHIBUYA BASE」を運営しており、ここでは、渋谷マルイにお店を期間限定で構えることができます。公募開始直後に半年先まで出店枠が埋まってしまほど大きな反響を頂きました。渋谷ヒカリエ等の商業施設で開催してきたポップアップイベントも、毎回多くの出店希望をいただいております。
新田:リアルの需要は高まってますよね。弊社が企画運営を行うイベント「渋谷デザイナーズマーケット」や、「渋南マーケット」でも毎回多くの出店者が集まります。みなさんリアルな場で他の出店者やお客さんとのコミュニケーションを楽しんでいますね。その結果、次の創作のモチベーションへ繋がっていくようです。
岸本:リアルな場で体験ができる、というのも大切ですよね。実際に商品を手に取れることもそうですし、BASEでは食品を売っている方も多いので、試飲や試食をしてもらえるのはリアルな場ならではだと思います。
新田:イベントではなぜ買われなかったかを考えるきっかけになるから良い、という声も聞きますね。
対面のコミュニケーションだと、反応を見ながらなんとなく買われなかった理由がわかることも多いと。
あと、イベントでは買われた方の顧客情報をメモしておいて、データとして残しておくことで独自に顧客分析をして、継続して売るコツを探っている出店者さんもおられました。まさに生の声が聞こえる、リアルなイベントだからこそですよね。
宮本:BASEにANSWEARという透けにくい白無地のTシャツを販売しているショップがあります。
素材にこだわったシンプルな白無地のTシャツなのですが、ここはポップアップショップでの世界観の訴求が上手で、シルバーとホワイトでブースを作っていました。以前のイベントでは初めての催事出店にも関わらず驚愕するような売り上げを叩き出してました。
世界観を出すことは、自分のブランドのコンセプトを言語化して、ビジュアル化していないとできないことなので、コピーライティングなど、広告的な考え方が大切ですね。
新田:ネットからリアルへの導線で良い事例はありますか?
宮本:ネットからリアルだと、株式会社ほぼ日(https://www.hobonichi.co.jp/)さんが「生活のたのしみ展」というイベントを行われているのですが、Instagramストーリーの使い方がめちゃくちゃ上手なんですよ。
イベントの前の日から投稿し続けていて、こんな人が出店して、こんな感じで終わりましたという、まさに一連のストーリーになっています。見てるだけでワクワクして行きたくなるんですよね。BASEではショッピングアプリにライブ配信機能もあるので、そこで制作現場を配信して商品の制作過程を伝えて「明日のイベントで買えますよ」と告知している方もいらっしゃいます。ストーリーを伝えるというのはとても大切で、新規にも既存顧客にも届きやすいです。
宮本:あと、お越しいただいたお客さんと写真を撮影して、それをストーリーにあげて「こんな方にきていただきました」とアップしたり。ファンの濃度が高まりますね。
新田:なるほど。Instagramのハイライトにも残して上手に使ってる方がいますよね。リアルからネットでいうと、イベント会場などで配布するショップカードも大切だと思っています。ショップカードにBASEのQRコードやSNSアカウントを書いて置いておく。あと、商品のタグにQRコードを乗せる施策も良いですね。
リアルイベントは準備から実施まで含めて、かなり労力がかかりますが、出る意味は本当にありますよね。リアルだけ、ネットだけ、ではなく2つをやりながら補って行くのが大切です。
そういった意味では、イベント会場での展示を作り込む時には特に高い意識をもって臨む必要があります。
お客さまが興味を持ってくれて、会話をし、ショップカードを渡すなど何かしらの接点を獲得するまでの”流れ”を意識することが重要です。
大きく分けると以下の4項目を意識すると良いと思います。
1.アイキャッチ(視線の確保・立体感の演出)
2.世界観(わかりやすさ・統一したテイスト感)
3.ストーリー性(体験してもらうコンテンツ・実際どう作っているかを伝える)
4.ネットへの導線(ショップカード・QRコードのPOP・クーポン券など)
上記のような会場での様々なコミュニケーションによって、どれくらeい自身のブランドがお客さまの印象に残ったのか。これがまさに、リアルからネットへの導線が成功するか否かの分かれ目となります。
成功しているショップの傾向やコツとは?
新田:どういったショップがBASEで成功していますか?
宮本:最終的に成功するのは、「研究熱心な人」と「続けている人」ですね。
ネットショップサービスを使ったらそれだけで売れる、って思いがちですがそうではないですよね。根気強く研究して作り続けることが最も大切。
売れているショップさんは自分が投稿しているハッシュタグをノートにメモして、どれが受けているか研究していました。そうして一定のフォロワー数に達すると、ファンが周りに広めてくれてどんどん広がっていきます。
新田:それは感じますね。「ネット販売はじめたらすぐに売れるんでしょ?」て簡単に考えている企業の方は未だにいらっしゃいます。ネットショップを作ったからといっていきなり世界中に届くわけではなくて、実店舗を運営しているのと同じように手が掛かるものですよね。
宮本:まさにそのとおりです。集客の方法を聞きたがる方は多いですが、例えば街頭でちょっとおしゃれな感じのティッシュをもらって行ったお店がボロボロだったら入らずに帰りますよね。それと同じで、集客もお店の世界観の統一やトンマナ、どちらも大切です
岸本:ご自身のブランドの一貫性と、お客さんからどう見られているかを常に見ることは大切な要素ですね。
まとめ
BASEなど誰でも簡単にネットショップを作れるサービスのおかげで、たくさんの個人クリエイターさんが働きながら自分の作品を販売することが可能になりました。
そして、ネットとリアルを行き来しながら、自らの考えで活躍の場を広げ、お客さんとコミュニケーションをとりながらコミュニティを広げていくことが大切なようです。
継続し、研究しつづけ、コミュニケーションを取ることが成功の秘訣。
すぐに売れるための近道ではなく、長く続けるためにどうするかを考えることが大切ですね。
Writer
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Design