「炎上したっていいじゃない。」クリエイターが世の中に語りかけること。| アートディレクター千原徹也(株式会社れもんらいふ 代表)

2020 2.20

kakeruの読者には、実際のところ“クリエイター”はどれくらいいるだろうか。

近年においては、クリエイターがSNSで作品やその制作プロセスの話、それに込めた想い、そして作品以外のことでもさまざまな気持ちを楽しそうに、軽やかに吐き出しているのを見かける。私自身はそこに明らかに出遅れたデザイナーである。タイムラインでの楽しげな発信や交流を見て焦り、スマホを手にしたままぼんやりとしてしまったり、投稿をあげたはいいが、思い立って消してしまったりすることもこれまでに何度もあった。

そういう中で先日、れもんらいふの代表、アートディレクター千原徹也氏のnoteのリンクがタイムラインで流れてきた。

ラフォーレの問題から思う事|千原徹也|note

当時、ラフォーレ原宿の広告に対していわゆる「パクリ騒動」がTwitterを中心に巻きおこり、それを通して千原氏が旧態然とした広告・デザイン業界に反旗を翻す声をあげたnoteの投稿であった。

書かれている強い意見の表明も印象深く、広告の世界にいた自分にはもちろん惹かれるものがあったが、それ以上にタイムライン上でさまざまなクリエイターがその投稿へのリンクを貼り、自分自身の意見を表明し、一石を投じる発信に対して反応を返していることに強く興味を惹かれた。それまで今回のような“古くからの”広告・デザインの世界の人間の発信に、SNSでさまざまな反応が巻きおこる状態を見たことがなかったからだ。

そして千原氏に話を聞きに行こうと思いたち、すぐにアポイントメントを取りつけて、こうして言葉にしたものが今回の記事である。広告・デザイン業界だけでなく、SNSで発信することを難しいと感じているさまざまな人に、読んでいただきたいと思います。

千原徹也プロフィール
1975年京都府生まれ。
広告、ブランディング、CDジャケット、装丁、雑誌エディトリアル、映像など、デザインする
ジャンルは様々。
H&M GOLDEN PASSキャンペーン、「Onitsuka Tiger×Street fighter V」ディレクション、
adidas Originals店舗ブランディング、久保田利伸 「Beautiful People」、桑田佳祐 「がらく
た」、関ジャニ∞ アルバム「ジャム」、吉澤嘉代子MV&ジャケットデザイン、ウンナナクール
のクリエティブディレクター。その他にも、アートマガジン「HYPER CHEESE」、「勝手に
サザンDAY」企画主催、J-WAVEパーソナリティ、れもんらいふデザイン塾の主催、東京応援
ロゴ「KISS,TOKYO」プロジェクトなど、活動は多岐に渡る。れもんらいふ
Twitter Tetsuya Chihara (@thechihara)
Instagram Tetsuya Chihara (@thechihara)
Youtubeチャンネル CHITUBE 千原徹也

テストしてみたら反響が大きかった、ラフォーレ原宿の話

──ではさっそくなんですが、最近のラフォーレ原宿の「パクリ騒動」に対して、noteで文章をよせられていて、いろんな反応があったと思うんですけども、手応えとしてはどういう感じだったんでしょうか?

千原:意外と「勇気づけられたよ」とか「すごいよかったね」っていうのをもらって。最初にくれたのは作家の川上未映子さんがLINEで「めっちゃいいね、あれ」みたいな感じで「感動したよ、闘ってんなー」「闘おうな」みたいなやりとりをして。

──それはいいですね。

千原:デザイン業界が閉鎖的だみたいなことを書いたんですけど、そしたら割とカメラマンとかコピーライターとか映画の人とか、音楽の人もみんな同意見ですと。だからどこの業界もみんなそうなんだなと。

──自分たちの業界もそういう感じなんですよと?

千原:そうなんですって。ということは、日本という国自体がそうなのかなと。一番こわいのが、学校の先生とかもそうだって言ってたから。教育という場である学校の縦社会的なところもそうなんだとしたら、結構ヤバいなと思って。自分たちの業界だけのことだと思ってたけど、これから子どもたちを学校に入れて、こんなんで大丈夫かなと心配にはなったね。

あとは反応として、僕は普段SNSとかは楽しい状況しかあげてないから、割とのほほんとした楽しくやってる人と思われていたのに気づきました(笑)

──(笑)そういう風に見られていたんですか?

千原:「+81」(plus81.com)っていう雑誌の編集長の山下さんからも連絡がきて、デザインに対しての想いとか、アウトサイダーな気持ちのある人って思ってなかったって言われて、それを知ったから、こいつとなんかやりたいと思ったんだよねって言われた。これから一緒に仕事していこうねみたいな感じだった。僕は意外と明るく楽しくやってるだけって思ってる人多いのかなって(笑)

──作品のトーンが“かわいい”“楽しい”から、そういう風に見えるのかなという(笑)

千原:あんまりストイックさを感じないからね、僕もあんまりそういうものが好きじゃないし。

千原さんて意外と闘っている、適当な人じゃないんだっていう感じで言われたから、こんないろいろ仕事しているから闘ってるに決まってるでしょって思ってたけど、意外と世の中の人って言葉にしないとわからないんだなと思いました。

改めてオリンピックのロゴのパクリ騒動を振り返る

千原:だからもっとデザインのことをPRしたほうがいいと思う。で、デザインのことを深く世の中のみんながわかってくれて、理解してもらえてたら、東京オリンピックのロゴの(「パクリ騒動」の)ときも、あんなことにはならなかったと思う。

──あの時、佐野研二郎さん(※1)が、こういうコンセプトでこう考えてこのロゴを作りましたということを記者会見でお話されていて、アートディレクターやデザイナーがプロセスをああいう公の場で話すのを初めて見て感動したんですが、記者会見の後の世の中の反応は真逆でしたね。

(※1)アートディレクター。騒動のきっかけとなった東京オリンピックのロゴ・エンブレムをデザイン。オリジナリティの有無が物議を醸し、後に使用が中止になった。

千原:あれはいろいろ負の状況が重なっていったのでね。僕は佐野さんがみんなの前でプレゼンテーションしてこんな意図があるんだよって、提案をしたのはすごくよかったと思っているんですよ。

──よかったですよね。

千原:でも、それを普段から世の中に知らしめていないから、ちょっと似ているだけでパクリだって言われるんです。この間のラフォーレ原宿の問題にしても、広告やってる人はコンセプトがあってこうなっているって言えるけど、一般の人に(広告での)物事の考え方を、今までPRしてないから。だから消費者の気持ちをわかってないんだよね。今まで接点持ってこなかったくせに、いきなりオリンピックのロゴ作りやがってみたいな感じじゃない? 

──そうですね、距離がありますよね。

千原:そう、距離があるよね。そういう距離を縮める努力をデザイン業界自体がしっかりやってかなきゃいけないんじゃないかな。そういう時期に来ていると思いますよ。途中経過を見せるのもかっこ悪いと思っていると思うんですよね、デザインやってる人って。作品で勝負しなさいみたいな。時代が止まってるんだよ、もう世の中変わってまっせっていう話なんだけど。

──でも、ということは新しい世代も全然育っていない、ということですよね。

千原:もちろん必死に頑張ってる人もいますが、広い意味では、育ってない。若い人は興味もない人が多い。

──今、SNSで名前が出てきているような人たちや世代は、また新しい流れのクリエイティブを作っている人として存在していると思うんですけど、業界が2つにわかれてしまっているということなんですかね。

千原:そうかもね。僕も最初に言われたのは、ADC(※2)とかほっときゃいいじゃんって。あんなこと言わなくてもって。千原くん独自の考えで、いろんなツール拡げて、自分でどんどんやってるんだから、いいじゃんって言われて。

でもそれが今のところ、日本のデザインの最高権威であるってことが危険だなって思っているんで。やるなら全然違う団体を作って、もっといろんな角度から検証できるような団体と、PRがすごく上手な団体と作るとか、それか現状の体制や組織をもっとちゃんとしていくってことをするかしないと、(デザイン業界の)ギャラもあがんないし(笑)

(※2)東京アートディレクターズクラブ。アートディレクターを中心に、フィルムディレクター、クリエイティブディレクター、コピーライターなどで構成される。会員数79名(2019年4月現在)。広告賞として年鑑作品審査会が5月に行われ、東京ADC全会員が審査員となり、ポスター、新聞、雑誌、テレビ、ウェブなど多種のジャンルの中から、ADC賞、その年度の優れた広告、デザイン作品を選出。ADC

──むしろ落ちていく(笑)

千原:やっすいよね、デザインのギャラ。もうちょっと権威あったんじゃないのって気がするけどね。

今、デザインの価値が下がっている?

──結局デザイナー自身が語るってことをしていないから…

千原:閉鎖的にやってきたからだよね。よさもみんなからするとわからない。だってクライアントはデザインがわからないからデザインを依頼するわけで価値もわからないわけで、だから平気でロゴを5万円でやってくれって言ってきたりするんだよ。

──5万円!!(笑)身に覚えがあるなあ、そうですよね(笑)

千原:いや5万ってさ、5万でどうやって生きてくのって感じじゃない(笑)でもそういうのを伝えきれてないから、そうなっちゃうんだよね。

──自分たちもそこを伝える努力をしてきていないのが今、返ってきちゃっているという。

千原:そうですよ。だから伝えていったほうがいいんじゃないかな、もっと。そういうメディアとかテレビとか使って。なんやかんやテレビも、まだまだ大きなメディアだから。テレビで今年のADC賞はこの人でしたー!とか言われるようになったら、めちゃめちゃ変わると思う。去年と一緒のが賞に入ってるんですね、とかさ(笑)そういうのを言う人も誰もいないからさ。

──いないですよね。でも、そういう意味では今回千原さんがnoteで書いたことによって、実際にラフォーレやパルコとかの広告を作れるほどの立場にいる人が発信したってことがすごく大きいなと思います。

千原:まあ僕は別に叩かれてもいいし、応援してくれる人もいるだろうからとは思ったんで発信してみたんですよ。そもそもそんな(権威のような)ものはいらないって思ってる人が、こんなにいたんだなって。9割の人がデザインに対してヤバいって思っていることがヤバいっていう。大変だよね、デザイン…。

クリエイターとしてSNSとの向き合い方をどう考えるか

──自分なりのSNSとの向き合い方として、発信しながらSNSとの距離感みたいなものを掴んでいくことが大事なんですかね?

千原:うん。やったほうがいいと思いますよ、みんな。

──試しにやってみるっていう。

千原:やって炎上したりしたほうがいいと思う。

──炎上してくれたらいいんですけど、全く反応ないのがこわいっていう。

千原:あまりにもそこに対する距離がデザインは特にあるから、デザイナーの人はみんなやったほうがいいかなって思うんだけど。そしたらもっと世の中が見えると思うんだよね。

──それと、Twitterはクリエイティブ業界にいる人のポジティブなつぶやきがウケる傾向があると思っていて。そこに疲れてしまうことはあるかもしれませんね。

千原:あーわかりますわかります。でもそれも商業の気持ちでやってるっていうよりは、個人の気持ちでやってないとバズらないじゃない?商業感出るとだめでしょう?

──そうですね。告知みたいなのって全然反応がないですもんね。

距離を縮める努力、よさをわかってもらう努力を。

千原:だから僕はそういうのをいろいろ試しながら、SNSもラジオもテレビに出るとかも、全部同じ感覚ではあります。それをやって、デザインをやっぱり間口を拡げて、市民権を得るっていう作業をやっていかなきゃいけないなと思って。デザインって、もっと楽しいよって思ってもらわないと。

──デザイナーって、楽しんだぜって。

千原:この間のnoteでのラフォーレ原宿の問題の話で言うと、今までは作品でしっかり見せて、作品について語ることはあっても、世の中の動きとかそういうことに対して語るつもりは全くなかったんだけど、そんなこと言える器でもないしなとか思いながら、1回書いてみようと思ったの、この間は。叩かれるっていうのもそれはそれでいいかなとか思いながら、テストしてみた感じなんですよね。

──叩かれてもいいっていう感覚ですか。

千原:そしたら思った以上に反響がでかくて、びっくりして、第一印象的には、グラフィックデザインとかMVとか、仕事でいっぱい作ってるのに、あんなのより言葉って強いんだなっていう。結局いろんなデザインを一生懸命作ったり、広告でバズらせようとか思っても大してバズらないんだけど(笑)ああいう世の中におきているような(ことに対して)強めの言葉を言うと、なんの表現より言葉って一番強いんだなっていうのは感じて、こわさも感じました。知らない間に傷つける可能性も高いんだなって、だからこわーと思いました。

──傷つけるのはこわいです。

千原:でも実験してよかったなと思います。そのこわさも知ったし。あと意外と僕が思っていた内容に対しては9割ぐらいの人が肯定したから、それも大丈夫? と思えたけどね、世の中って感じで(笑)みんなの考えていることってこういうことなんだなっていうのは一回書くといろいろ知れたし、面白かったですけど。だからたまーに書いてみようかなと思って。

これから先の発信について。

──最近千原さんの活動を見ていて、noteだったりYoutubeだったり、従来のSNSのプラットフォームに加えてさらに増やされているという印象なんですけど、それって意識してそういう場を増やしていこうという感覚があるんでしょうか? CHITUBE(※3)は今後の展開は考えていますか?

(※3)千原徹也 Youtubeチャンネル 千原徹也

千原:今いろいろインスタとかTwitterとか、facebookとか、たくさん発信するべき場所がありすぎて、なにからなにをどうやっていいかってことで言うと、自然な流れで考えていけばいいかなって思ってるんですよね。別に全部やる必要性もないし、チョイスしてやって、その延長上にラジオとかあったり。J-WAVEで今やっている番組「NAMIKIBASHI CONNECTION」(※4)に加えて、3月から「SHIBUYA DESIGN」っていう新しい番組が始まるんですけど、生放送で渋谷パルコの10Fのサテライトスタジオからやるんですよ。それと(CHITUBEは)連動しようっていうことにしたんです。

(※4)J-WAVEにて放送中のラジオ番組。毎週金曜23:00-23:30

 MESSAGE TO STUDIO | NAMIKIBASHI CONNECTION

──音声でも出しつつ?

千原:そう、裏話とか、そこで来たゲストを呼んでしゃべったりしようと思っていて。

──ラジオ番組のスピンオフみたいな感じですか?

千原:そうそう。それだったら続けられるなと思って。

──たくさん活動の場が広がっていっていますね。

千原:やっぱり僕は、言葉とかメディアでデザインおもしろいよって言っていかなきゃいけないポジションだなって思ってるんですよ。他に誰もやらないから。やらないと本当にデザインおもしろいよって思ってもらえない。できあがったポスターを見て素敵だなって思ってもらえるのも大事だけど、その過程がおもしろいから。撮影中とかね、そういうおもしろさを知ってほしいなって思うんで。

──これからも。

千原:ちょっと気になっていることとか、これからも。


取材中に「デビューするんですよ(笑)」と見せてくれたトーキョーベートーヴェン(※5)の7インチのレコードジャケット。女の子のアンダーウェアやパジャマを扱うブランド「une nana cool(ウンナナクール)」の店内で流れるとのこと。ジャケットのイラストは香港のイラストレーター リトルサンダー(Little Thunder 門小雷(@littlethunder))、タイトル文字は“やっと探し当てた”染谷淳一さん。2月27日に渋谷パルコ10FComMunEで、デビューイベントを開催予定。

(※5)トーキョーベートーヴェンKISS,TOKYO RECORDS

インタビューを終えて

この取材でたくさんの話を聞くことができた。SNSで流れてくるものを見て、作品のインスピレーションになることはあるのか?という問いに対して、「ないですね」とにこやかに言われて少したじろいだ。生活しているなかで、目に入ってくるものだけ。これまで生きてきて目にしたものの中に、すでにたくさんのアイデアのソースや、やってみたいことが刻み込まれているとのこと。

核となっているものが揺るぎようなく存在しており、「叩かれてもいいかなと思って」の言葉どおり、“この人なら本当に叩かれても炎上しても、ちょっと楽しみそうだな”と頭の中で考えながら、インタビューをした。

目の前にたくさんある仕事も相互に関係し合いながら存在していて、ひとつひとつを楽しみながら。SNSという“発信ツール”も目の前に存在して、試してみることを楽しみながらやる。そしてその先に、発信した者にしか見えてこないことがあるらしい。

「何やってんの?」と言われることもあると、笑いながら自分も言えるようになろうと決めた時間でした。ありがとうございました。

Interveiw&Text&Design 今城加奈子
Photo 矢野拓実
Support 酒井大輔



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