「SNSはもっと人間らしく使えばいい。」自分の星を理解する。 | イラストレーター 新井リオ

2020 2.28

クリエイターにとって、SNSでの発信を一番億劫にする理由はなんだろう?

プライドかもしれない、同業者の目かもしれない。専門性にあふれた独自な視点、クリエイティブな発想が見え隠れするような、ちょっと気の利いたことを発信しなければ、同業者から“こいつとはセンスがあわない”と思われるかもしれない…。

といったところだろうか。実際には自分の場合、最近好きになったK-POPの話を思う存分、発散したくて、少し前に裏垢というものを作った。いつ同業者に見られても、恥ずかしさを軽減できるように英語と韓国語でのみ、つぶやいている。(決して英語と韓国語を話せるというわけではない、勉強中である)そこには、同じK-POP好きの知らない誰かが自分のアカウント(存在)に気づいて、フォローしてくれないだろうか、という欲求もあった。

非常に馬鹿げた話だと思われそうではあるが、ここにそれを書いているのさえも「私も同じ」と誰かが手を挙げてくれて、“つながり”たいという欲求があるからだ。

そういうSNSとのつきあい方をしているなかで、ある日こんな本を見つけた。

「英語日記BOY 海外で夢を叶える英語勉強法」

英語勉強中の自分にはタイトルはもちろん、帯の謳い文句も気になった。そして内容紹介文には“カナダでフリーランスデザイナーになった新井リオが、スマートフォンなど身近なツールで「自分に必要な英語から」効率よく学ぶ方法を伝授。”とあった。

同じ業種である。しかも私の何歩も先を行って、叶えたいことをすべて叶えている人を見つけた気がして、すぐに取材の日程を取りつけ、イラスト個展を開催中だというその人、新井リオ氏に話を聞きに行った。それがCreator×SNS vol.2となる今回のお話です。

新井リオプロフィール デザイナー/イラストレーター/2016年カナダに渡りフリーランスに。Sony Music Shop/TOWER RECORDS/ヴィレッジヴァンガードとのコラボグッズ、雑誌WIRED/EYESCREAM web連載イラストなど。5年間書き続けた「英語日記」勉強法をつづった著書『英語日記BOY』(左右社)が、Amazon本総合人気度ランキング1位を記録。バンドPENs+のボーカルとして日本で4枚のCD、アメリカで1枚のレコードをリリース。

arairio.workhttps://arairio.work/

新井リオ Twitter @_arairio
新井リオ Instagram _arairio

バンド甲子園とSNS

──もともと、「英語日記」をやる前って、SNSはどのくらいやってました?

新井: イラストレーターになるまではずっとバンドをしていたので、毎週ライブ情報の告知などをしていました。15歳でギターをはじめて、17歳でPENs+というバンドを組み、18歳で「閃光ライオット」(※)というバンド甲子園みたいな大会に出場したんですよ。

(※)10代のアーティストたちが、真夏の野外フェスへの出場権をかけて、全国から一挙に集結する“音楽の甲子園”。2008年に始まり2014年に幕を閉じた。https://www.tfm.co.jp/lock/riot/sp/index.html

──告知以外のつぶやきみたいなものとかも?

新井:普通にしていました。学校のこととかもつぶやいていたと思います。

──「閃光ライオット」ってとても大きな大会ですよね?

新井:僕が出た2012年は応募バンドが1万組くらいいて、出場できるのが9組でした。

──すごいですね! そういう大会の前後で、SNSでもちょっと変わったりしました?

新井:当時はTwitterが流行りだしたくらいの時だったので、あまり変わらなかったと思います。

一人のお客さんの反応から変わった

──本にありましたが、その後にバンド活動のなかで出会った一人のお客さんによって、発信しようっていうきっかけが訪れたんですよね?

新井:そうです。21歳のときにバンドを休止し、カナダに住んで、デザイナーとして働きはじめました。それ以降ほとんど必要性やニーズを感じていなくて、SNSは使っていなかったのですが、一時帰国のタイミングで1日限定のライブをしたとき、発信を始めるきっかけとなる出会いがありました。

あるお客さんが「海外に住んでみたいけど、お金がないし親も賛成してくれなくて、どうすればいいかわからない」と相談してくれたんです。まさに自分が乗り越えてきた悩みでした。そこで、僕が実践してきた、お金のかからない「英語日記」勉強法の話をしました。

──具体的にはどんな話だったんでしょうか?

新井:「今あるツールを駆使すれば、日本で英語を習得できます。その上で海外に行けば、現地でいきなり働くこともできます。どうかお金や環境に飲み込まれず、海外に行ってください。“やってみたいことがある”というのは“やらなければいけないこと”よりも大切にしたほうがよくて、想像以上に貴重な感情だと思います。それこそ親がなんと言おうと。僕は、やりたいことをやってみた上でわかった辛さと楽しさの上にいま、生きています。すごく生きている感じがします。」と伝えました。

するとそのお客さんが、「今日、本当に来てよかったです。」と言って、涙を流して感動してくれたんです。

──それはすごいですね。

新井:そのとき、自分は音楽の力を借りないと人を感動させることができないと思っていたけど、「実体験を言語化する」という、こんなにシンプルなことで人を感動させることができるんだなと気づいて。

その後すぐカナダに戻ったんですけど、この感覚が忘れられなくて。自分の実体験をわかりやすいやり方で伝えることで、人を感動させることができるって、その事実に自分が想像以上に感動して。自分にできる表現方法で、人を感動させてみたいという、そっちに興味があって、これまで自分が考えたアイデアの中で、一番多くの人に影響を与えられる可能性があるトピックが「英語日記をつかった独学による英語学習」だと思ったので、勉強法をつづるブログを書きはじめました。

──そうしてブログがGoogle検索1位になったり、さらに書籍化になったり。そういう中で、言葉で直接的にこういうことを体験して、音楽で伝えるより、そっちのほうが直接的ではやいみたいな感覚ってありませんでしたか?

新井:そうですね…今伝えたいものが“情報”なのか“感情”なのかで意識的に表現方法を変えた方がいいと思います。たとえば英語学習法を音楽にしたら、なんかおかしくなっちゃうじゃないですか(笑)これは“情報”なので、シンプルでわかりやすい方がいいんです。逆に“感情”、たとえば優しさとか孤独とかは、音楽や絵のようなアートでその複雑さを表現してみたい。

読者から著者の視点に

──心のさざなみのような?

新井:そうそう。そういうものも伝えたい。もう表現が本当に好きなんですよ。「寂しい」と文章にするよりも、「寂しい」を色や音にしたらどうなるんだろうと考えるんです。そうすると、自分にしか作れない「寂しい」が生まれる。これがアート。シンプルな方がいい“情報”とは違い、複雑さが深みを生みます。また、未熟さや若さが逆に魅力になるときもあります。

──そうですね、完成されていない良さもありますね。

新井:一方で、文章って「未熟さが良さになりにくい」と思うんです。音楽や絵よりも技術が要る。それとブログをロックバンドの曲のギターリフだとするなら(笑)本は、クラシック楽団の重奏ハーモニーのレベルでこんなにも違うんだと、はじめて気づいて。

だから出版社から依頼を受けて本を書きはじめたとき、すごく悩みました。そこで、今まで読者として読んできた本を、“著者”として改めて読んでみようと思いました。特に村上春樹さんとピースの又吉さんが好きで、何度も読み返しました。

──そうだったんですか?

新井:今日は又吉さんの「東京百景」をリュックに入れてきました。常にこの二人の本を持ち歩いています。

よかったら一折り、もっとよかったら二折り。この本はいいところがありすぎてマスキングテープまで使ってます(笑)読み込まれているのが一目瞭然なほど、味のある状態であった。

自分は“おもしろ星”にいないことに気づいた

新井:僕なりにもひとつ気づいたことがあって、又吉さんの文章、読みながら声を出して笑ってしまうほど面白いんです。すごく憧れてしまい、自分も、英語の本なのにクスッと笑える文章を目指して書いていた時期がありました。でも、どうしても“イタい”感じになってしまう。それって又吉さんがおもしろい文章を書けるという属性の人間だからできるんだと思うんです。自分はたぶんその属性にはいない、その星にはいないから…

──にじみ出ちゃうもの?

新井:そう、そうなんです。でもだからって“自分には才能がない”ことを意味するのではなく、ただ、“本来目指すべきではない星を目指してしまっていた”だけだったんです。そこで、自分はどんな星にいるんだろう?と考えました。で、自分がいままで一番評価を受けたのは「英語日記のアイデア」だと思ったんです。意図的にやったわけではないですがGoogle検索1位をとるのはけっこう難しいことなので。

──たしかにそうですよね。

新井:又吉さんの言葉なんですけど「僕にとって個性とは余分にある邪魔なものを隠して調節するものであり、少ないものを絞り出したり、ないものを捏造する事ではなかった」っていうのがあって。つまり自然発生的にやっていることが個性なんだとしたら、自分はおもしろ星ではなくアイデア星みたいなところに属性があるのかなって。だったら、刃を研ぐ職人のように、「英語日記というアイデア」の切れ味を存分に出す文章を書こうと思いました。

──それって、どうしたら見つけられるものだと思いますか?自分がどの星の人間なのかっていうことは。

新井:何かに触れたときの自分の反応を観察するんです。自分は何が好きで何が嫌いか?なぜそう思うのか?なぜこれをずっとやっちゃうのか?

──コツとかはありますか?心がけることとか。

新井:とにかく多くの作品に触れることが大事。作品に限らず、多くの人に会い、多くの環境で生活してみる。で、自分で自分を観察します。

──なるほど、自分と向き合ってみる感覚なんですかね。

新井:例えば「英語日記BOY」は、“英語を話せるようになりたいならお金をかけて留学するしかない”という社会常識に触れたときに感じた違和感がすべての発端です。

“社会常識”に違和感を感じているということは、それとは異なる“自分(なりの)常識”みたいなものが存在しているということなんです。これを大切にするということですね。

──自分が読んだ印象としては、たしかにすごく実践的なやり方やアイデアが書いてあるんだけれども、たまに1行、すごく感情をゆさぶられるような、エモーショナルな部分が入っているという印象があります。

新井:勉強は大変だけど、本当に突き詰めれば、勉強それ自体が人生においてかけがえのないプロセスであり、充実した経験であり、ラクしてるよりも、むしろ楽しいっていうか。勉強からはじまるドラマの素晴らしさを伝えるほうが、誰でもできますよっていうことを言って引き寄せるより、本質的だし、継続につながるし、社会にとって存在する意味のある表現物体になると思ったんで。

ドラマティックな、自伝のような作品だと思ってるんですよ。英語学習本のことを作品だと思っている著者っていないんじゃないかなと。

──そして、やっぱりそういった地道な試行錯誤を積んでいかなければ、新井さんのように一人の表現者としてみんなに見てもらえるようにはならないんだなって思いました。「覚悟」を決めなければならないんだなって。

新井:んー、まあ「普通の仕事に適性がない」という諦めから生まれたというのが正直なところですが、たしかにいまは、表現で生きていく覚悟がありますね。あと、今日のテーマはSNSですよね。僕、SNSも向いていると思うんです。

でもSNSをやっている人がみんな、これでのぼりつめようみたいなのを思っていたら、絶対ツラくなります。想像以上に大変な気がします。数ヶ月で結果がでなくても、めげずに伝え続ける意志が必要。あとはその対象を心から好きになっている状況とか、いろんな要素があいまってできることで。

SNSが絶対ベストなのか?と考える

新井:SNSでは「こうしたらバズる」とか「こうしたらフォロワーが増える」みたいな情報もたくさんありますが、それって本質的なのか?と思うところが正直あります。たぶん、本当の意味でSNSに向いている人というのは、「どれだけ時間をかけてでも、社会に対して伝えたいものがある人」だと思うんです。

──それは、自分の軸をバシッと持っている人ということですかね。

新井:だからみんながSNSを唯一の選択肢として捉えていると絶対ツラくなる人が出るし、もう出ていると思うし。今って、一周回って、じゃないですけど、「まじでこれを伝えたい」っていう強い意志があり、ある程度振り切れている人が人気になっちゃうんですよ、SNSって。


──そういう流れがある?

新井:少なくとも僕は、純度の高い発信に惹かれますね。

本当に自分の核となるものが、100年前であろうが、100年後であろうが、本当にこれがかっこいいと思うんだよねって理解していて、伝えたいという状況がもう素敵だと思うんですよ。「やりたいからやってる感」っていうのかな。僕本当に英語が好きだし、もう普通の生活をある程度諦めて吹っ切れてもいるので、SNS向いていると思います(笑)

──向いてる、たしかに(笑)

フォロワーは数字じゃない、凝縮されたエネルギー

新井:英語日記も、自分の英語勉強とイラスト練習のためにInstgramで公開しはじめたら、想像以上にフォロワーの方が増えてくれた。人がSNSに向き合うときに一番大事なのは、とにかくフォロワーの方を大切にすることだと、本当に思っています。

── 「フォロワー数」についてはどう思いますか?

新井:“フォロワー数”というくくりで見ると、1万人を数字で捉えそうになりますが、実際には、それぞれにドラマを持ち、悩みを抱えながら生きてきた人間一人一人の重なりが1万人になるわけじゃないですか。そう考えると、この1万人には、凄まじいエネルギーが凝縮されているんです。このスマホの中に無数の命があることを忘れてはいけない。

だからこそ、“フォロワー獲得”みたいな言葉で表すのがそもそも失礼だなと思います。見る人のリテラシーも日に日に高くなっているので、発信者の本気度ってすぐにバレると思うんです。フォロワーは“数字”ではなく“人間”ですね。「みんなこういうの好きなんでしょう」で物が売れる時代じゃあ、もう、ない。

──ないですか。

このインタビューが行われた中目黒 蔦屋書店で開催中の「英語日記BOYの英語日記展」は、
新井氏をフォローしていた中目黒 蔦屋書店のスタッフからのオファーにより実現。
「僕の発信内容に1年以上前からずっと励まされてきたと言ってくれました。会ったことはなくても、スマホの向こうにいるはずの“人間”に届けたくて続けてきたSNSでの活動だったので、お話がきた時はうれしかったです。」とのことであった。

新井:本当に、愛を持って、ピュアな感情を持って自分の表現作品を見てくれてる人を大切にする。「ありがとうございます」みたいなリプライを毎回送るようなことじゃなくて、フォローしてくれている人に、常に日頃から感謝の気持ちを抱いていると、その人が次にやる行動が変わってくると思うんです。

──そうですね。

新井:自分を例にだすとおこがましいですけど、今回の展示で各パネルに通し番号をふろうと思ったのも、フォロワーの人が来てくれるんですよ。その人達が、点在したイラストだと見にくいから、でも人が来てくれるのを想像した結果、こうしたほうがいいかなっていう。人間のやさしさ、みたいな気遣い、みたいなものに対する価値が倍増している気がします。

──血の通ったコミュニケーションが存在しているということですね。

新井:“ピュアに生きよう”ってことなのかな。自分の適性を理解して、飾らずに、嘘をつかず、時間をかけて、まっとうに生きる。そうすれば次第に人が応援してくれて、一人の力では叶わなかった夢のような出来事がたまに起こったりする。

──今SNSというものがあって、ラッキーですよね(笑)

新井:ラッキー。本当にすべて俺の実力だと思ってないですよ。完全に時代背景的なものも関係しています。「英語日記BOY」の中で『英語はツールだから、英語を使ってなにをしたいかが大事』と書いたように、“SNSもツールだから、SNSを使ってなにを社会に提示したいかが大事”だと思います。ただ、これって意外と難しくなくて、もっと人間的らしく、“社会常識”ではなく“自分常識”を信じるだけでいいんです。あまり力を入れず、ラフに、素を出すようにSNSを使えばいいと思います。SNSがなくても生きていけたはずの人間たちに、たまたま今SNSがある、くらいの認識で。自分の好きなことを話すのが好きな人はそのまま使えばいいし、そもそも苦手な人は無理に使わなくても楽しく生きる方法はたくさんあると思います。

ふたたび新しい場所へ

──で、今度はドイツで活動を。

新井:イラスト・音楽・文章以外に、人生を通してやりたいことが本当にないんですよ(笑)それをもっと高いレベルでやってみたくて、今年から最低10年くらいはヨーロッパに住んでみます。まずはドイツで、その後イギリス。今はお金のことはあまり考えてないです。まあお金も大事なんですけど、「1億円あげるから物づくりをやめてください」って言われてもやめないんで、だとしたら今の生活に1億円以上の価値があるってことだし。ドイツ楽しみです!

──楽しみですね!

新井:ほんとに楽しみ(笑)僕はSNSにかける覚悟っていうよりは、表現で生きていくことへの覚悟はあります。不安もなくはないけど、“毎月定額のお金が入ってくる環境”よりも“自分が作りたいものを今作れる環境”が好きなので。明日死ぬってなっても、昨日と同じように英語を勉強して、絵を描いて、歌って死ぬと思います。

インタビューを終えて

SNSやインターネットの世界には、偶然の出会いがないと嘆く声を聞くことがある。そのことを新井氏にぶつけてみると、「めちゃわかるけど、やるorやめるみたいな話じゃないんじゃないかな、それって。SNSが完全に排除されたほうが幸せじゃないかっていったら、そうじゃないし。」とのこと。

聞くと通っている美容室で、美容師をとおして新井氏のことを知った女性が、その発信内容に刺激を受け、きっかけになって海外に行くことを決めたらしい。

その可能性があるのがSNSであると。そしてその人なりの絶妙なグレーゾーンを整備する努力が大切なんじゃないか、という話であった。

そして、ピュアな想いでSNSに向き合うべきだと言われて、思い出したことがあった。自分の場合、デザインやアートワークに同じような気持ちで向き合う時、たまにではあるが本当に人を動かせるような奇跡的な出来事や、ドラマがうまれることがある、という過去の記憶があった。

どうしてSNSになると、作為的なものを働かせようとしてしまうのだろう。そのうえで、新井氏が自分なりの文章を、目標を決めてひたすらに探していったという話は、このようなSNSという表現ツールの前でつい本来の自分らしいやり方を見失いがちな者にとっては、「あ、そうすればいいんだ」と気をラクにさせてくれるように思う。

次はどんな新しい場所で、新しい挑戦をしたとしても、SNSがあれば新井さんのエモーショナルなドラマを追いかけていけますね。私も楽しみにしています。

Interveiw&Text&Design 今城加奈子
Photo 橋本越百
Support 酒井大輔




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