こんにちは!kakeru編集部の橋本です。
普段は、アパレル企業を中心にInstagramの活用をサポートしています。暇があれば、Instagram内をさまよっているヘビーユーザーなのですが、最近インフルエンサーがプロデューサーとなって、自身のブランドを立ち上げているのを多く見かけるなぁと感じています。
私自身、昔からファッションが好きで、将来的にはアパレルブランドの立ち上げに関わりたいと思っており、「一体みんな、どのように立ち上げているんだろう?もしかして簡単に立ち上げられちゃったりする?!」と、気になって気になって、夜も眠れません…。
ということで、プロの話を聞いてみよう!と思い立ち、アパレルブランドの立ち上げにも参画し、自ら衣装制作も手がけている座波ケニアさんにお話をお聞きしました。
写真左)座波ケニア 86年ブラジル、サンパウロ生まれ、幼少期に日本へ移住し、服飾の専門学校卒業後アパレル会社に就職、営業、企画、生産管理を経て現在フリーで衣装制作やウェディングドレス、企業のサンプル製作やオーダーメイドを請け負っている。
写真右)橋本 麻由(はしもと まゆ) ミレニアル世代ど真ん中。学生時代セレクトショップのブランド立ち上げに携わった経験もあり、アパレル関連の知識・トレンドに強みを持つ。現在はコスメ・ファッション系クラアイントを中心に、大手企業に向けSNSマーケティング戦略の策定に従事。セミナー登壇やメディア執筆なども手掛ける。
ブランドの立ち上げって簡単なの?
橋本:今日は取材を受けていただき、ありがとうございます!
座波:こちらこそ! 取材ってはじめてだから緊張しちゃう(笑)。
橋本:そうなんですか!
座波:うん。これまで、もくもくと服作りをしてきたから表に出る機会ってなかったんだよね。今回お話をもらってびっくりしちゃった(笑)。
橋本:kakeruが初取材なんですね、嬉しいです! 座波さんは、アパレル業界でお仕事をはじめてから、どのくらい経つんですか?
座波:今年で12年目くらいかな。今はフリーで、それまではずっと生産管理という仕事に関わっていたよ。
橋本:生産管理って、どんなお仕事なんでしょうか?
座波:そうだね。ざっくり言うと、生産管理の仕事はお店に洋服が並ぶまでのすべての段取りを担当しているの。デザイナーとの打ち合わせから、資材の調達や価格交渉、とにかく納期までに仕上げるための工程に全部関わってる。
橋本:すべてですか…。そんなにたくさんの工程に関わっていると、トラブルなんかも多そうですね。
座波:そんなの全然あるよ! 前にあったのは、長袖のパーカーを頼んでいたのに、左側だけが五分袖であがってきて、ギャグかな?と思って(笑)。
橋本:五分袖!? しかも左側だけなんですね(笑)。
座波:いやーほんとだよね。でも、基本的に段取りどおりに進むことって絶対ないから、不測の事態に備えて、三手先くらいまで考えないとダメなんだよね。私は、思い通りにはいかないのが当たり前だと思ってるし、なんとかして仕上げるのが楽しいの(笑)。
橋本:(明るい…) 本題なのですが、今日はインフルエンサーになればブランドって簡単に立ち上げられるのか?という質問をさせていただきたいなと思ってます。ぶっちゃけ、どうなんでしょうか?
座波:うん、立ち上げること自体は簡単だよ。
橋本:え!?簡単なんですか?
座波:そうね。たとえば、洋服を作れる知り合いがいれば、まずは思いついたものをサンプルとして作ってもらって、その服に名前をつければそれはブランドになるから。でも、圧倒的に難しいのは長く続けること。
橋本:そうなんですか…。
座波:ブランドを立ち上げる人次第なんだけどね。一点一点作るだけでよいのであれば、オートクチュール(※)で良いけど、多くの人に着てほしかったり、長く続けるなら”やり方”を知っておいたりした方がよいと思うの。
橋本:詳しく教えてください!
(※)オートクチュールとは、一般的には、完全オリジナルの一点物の高級服のことを指す。
ブランドを陰で支える『生産管理』という仕事
橋本:立ち上げたブランドが長く続かない理由ってなんでしょうか?
座波:いろんな理由があるけど、おそらく生産管理に詳しい人が欠けていることが多いんじゃないかな。
橋本:生産管理に詳しい人がいないと、どうなるんでしょうか?
座波:たとえば、「ブランドを立ち上げたい!」と思っても、はじめましての人が、いきなり素材屋さんや、工場の人たちに相談しに行ってもなかなか相手にされないと思う。彼らは常に稼働しているわけだから、はじめましての子に時間を割く余裕はとれないし、いきなり作るところに持っていってもダメなのよ。
橋本:信頼関係もないですもんね。
座波:そうそう。ブランドの立ち上げには、関わる人たちと信頼関係を築いていくことが必要だと思ってて。たとえば、生産過程でもたくさんの人たちと関わっていくんだけど、信頼関係が築けてないと、安定して良い商品を作ることはすごく難しい。良い商品が作れないとお客さんに満足してもらえなくて、結果的にブランドやインフルエンサー自身の信用も失ってしまうことになる。
橋本:たしかに。でも、どうすればいいんでしょうか?
座波:まずは、私たちのような服作りを知ってる人に聞いてみて欲しいな。そうしてくれると、私たちもお手伝いしやすいんだけど、「何をしたらいいか分からない!」って心が折れちゃう子も多いんだよね。
橋本:座波さんのところにも相談に来る人たちは多いですか?
座波:うん。たとえば、この間もTwitterのDMでわざわざ連絡をくれた子がいて、「ワンピースを作りたくて工場に持って言ったけど断られた」と相談をもらったのね。どんな工場を訪れたのかよくよく聞いてみると、革物屋さんに持っていちゃってたの(笑)。さすがに、ワンピースのような薄い素材を革物屋さんに縫ってくれというのは難しい話よね。工場にも作りたい服に適したところがあるんだけど、はじめて服を作る子は分からないもんね。
橋本:全然分からないです…。ちなみに、服を作るまでにどんな人たちと関わるんですか?
座波:んーとね。こんな感じかな。
橋本:めちゃくちゃたくさんの方と関わるんですね! こういう知識ってある程度持っておかないといけないんですか?
座波:ううん。別に服を作るための知識はなくても大丈夫。インフルエンサーの子たちは自分が持つ世界観へのこだわりが強みだから、それを伝えてくれればいいの。そしたら、こっちの考えも伝えて、より良い服を一緒に作っていけばいいだけだから。
橋本:なるほど! ちなみに、非常にお聞きしづらいのですが、こだわりが強すぎて言うことをまったく聞いてくれないってことはないですか?
座波:んー、たまにあるけど、インフルエンサーの人たちって私たちじゃ思いつかないようなアイデアをくれるから勉強になるの。でも、さっきも言ったけど、「その素材じゃ夏場汗ばんだり、首が通らなかったりするよ」とか、私たちじゃないとアドバイスできないこともある。お客さんのことを考えずに作って、信用を失うのは、私たちも避けたいし惜しいことだと思うから、一緒に話し合いながら決めていきたいね。
橋本:私も買ったときはすごく気に入ってたのに、破れやすかったり、形が崩れやすかったり、動くことを考えられてないような作りに気づいて着なくなったことがあります。
座波:それが2つ目の理由で、「モノに対する責任」ってすごく重いんだけど、それを見落としてしまうこともあるんだよね。
「モノに対する責任の重さ」を理解しないと信頼関係は崩れてしまう
橋本:「モノに対する責任」って、つまりどういうことなんでしょう?
座波:たとえば、ブランドがリリースされた後って、商品の評価は、お客さん自身に委ねられるじゃない? でも、その評価の責任はブランドを立ち上げたインフルエンサー自身が負うことになるよね。
橋本:たしかにそうですね。
座波:お客さんのことを考えられてない商品を出してしまったときに、悪い評判も独り歩きしてしまって、ブランドへの信用もなくなってしまう。モノを作る責任ってそれだけの重みがあるの。
橋本:たくさんの人に着てほしいなら、お客さんのことを第一に考えないといけないということですよね。
座波:そうだね。でも、さっきも言ったけど自己顕示欲や、こだわりが強いことは全然良いことだと思うよ。ただ、自分本位になった瞬間、お客さんが見えなくなるから。それは服に限ったことじゃなくて、なんでもそうだと思う。商売の基本って、人の必要を満たすことじゃない?
座波:自分の影響力を過信して、お客さんに対して傲慢になっちゃったら、信頼なんて一瞬でなくなるよ。
橋本:お客さんに対しても、モノに対しても作る責任を持たないといけないことがよく分かりました。他にも商品を作る上で知っておいた方がよいことってありますか?
座波:あとは、資材は有限ってことかな。
橋本:なんだか当たり前のようにも聞こえます。
座波:そう思うじゃない?でも、意外と見落としがちなのよ。たとえば、10月にブランドの展示会をやるために9月に揃えた資材が、11月の販売時期には無くなってる…なんてことはよくあるの。夏場なんて白Tがめちゃくちゃ売れるから、白色の人気生地なんか争奪戦。私は面白いから好きだったけど(笑)。
橋本:素材が無くなった場合はどうするんですか?
座波:基本的にそんなことにならないように調整するんだけど、似ている生地を探そうってなるかな。生産管理としては一番悔しいけど。
橋本:あれ? ということは展示会で見て商品を買ったお客さんからすると…
座波:「ちょっと違くない?」ってなるでしょう。もうそれでお客さんとの信頼関係は揺らいじゃうよね。だから、受注生産で販売していくとコントロールめちゃくちゃ難しいの。気候とか、予期しないことが起きて計画よりも早く売れてしまって追加したいって思っても、生地を作りだすところから始めると、ざらに2ヶ月とかかかっちゃうからね。
橋本:今、生地しか頭になかったんですけど、ボタンとかファスナーとか服を作るための材料ってたくさんありますよね。
座波:そうそう、ボタンとか色染めしないといけなかったりもするからね。お客さんの目はしっかりしてるから、予定していた商品と全然違うってなったら、すぐ見抜かれちゃう。
橋本:たしかに。
座波:受注生産って、売り切れた後すぐに追加生産できないと、お客さんから「じゃあ、いっか」って思われてしまう。だから、私たちも必死で作るよね。前に、資材が限られてて、作るのがすごく難しい服を担当したことがあって、案の定、予想よりも早く売り切れちゃったのね。それで追加生産が決まって、資材屋さんに相談したら「え…。もう資材はほとんど無いって話をしたばかりじゃないですか!」って言われて、「そこをなんとか!○十個だけだから!」って頭下げて頼み込んで(笑)。こんなドタバタ劇の中、一着作るまでにたくさんの人たちと関わりながら、駆けずり回って最速で仕上げていく。
橋本:めちゃくちゃ大変って思いました。管理できる気がしないんですけど、どうやってスケジュールや作業内容を管理してるんですか?
座波:ああ、そんなのメモだよ。でっかいメモ帳にマジックで。一週間分のスケジュール作って作業終わるごとに書き込んでるよ。工場は未だにFAXメインで稼働してるから結局紙で管理が一番効率良いの。
橋本:意外とアナログなんですね。それを一人で?
座波:大きな会社だと、生産過程ごとに担当の人がいたりエクセルで管理してたりするけど。私は全部一人でやってたからね。もう忙しないよ。前に、間違った資材を渡しちゃって佐川急便のトラックを走って追いかけたもん。「ちょっと待ってー!」って大声で叫びながら(笑)。
インフルエンサーブランドの根本はカリスマ店員時代から変わらない
座波:今回の相談をもらったときに考えていたんだけど、インフルエンサーブランドの走りって、ギャルブランドのカリスマ店員じゃないかなって思ったの。
橋本:昔の109とかにいた店員さんたちですか?
座波:そうそう。昔担当していたギャルブランドの店員の子たちって天然というか、肌感覚でみんなが欲しがってるものが分かるんだよね。多分、自分のお客様がどんな人たちかよく理解していたんだと思う。でも、作ることに関しては素人。
橋本:たしかに同じような状況ですね。
座波:「背中がバーン!って腰まで開いてるブラウス作りたいです!」ってオーダーをもらったから、絵も描いてもらってサンプルで作ったものを見せたら「うわ!ダセえ!」とか言われちゃったり(笑)。
橋本:インフルエンサーの方々と同じで、その店員さんもこだわりは強いですもんね。
座波:うん。ただ、彼女たちが一番大切にしていることは「売れる商品を作ること」だったし、自分たちが服を作る知識がないことを自覚していたから、私の助言もなんだかんだ素直に聞いてくれるんだよね。だから、飛ぶように売れる商品がバンバン出るし、長続きもしていたよ。
橋本:売れる見込みのあるものをアイデアとして出す人と、具現化する人がいることも理解していたんでしょうか。
座波:そうだね。当時のカリスマ店員とインフルエンサーの根本は変わってなくて、昔から影響力のある人たちのブランドが売れる流れはあったんだよね。変わったのは、プラットフォームかな。
橋本:プラットフォームですか?
座波:今は昔に比べて色んなプラットフォームができたよね。宣伝する場所や、服を見つける場所もSNSになったり、個人でネット上にショップを持てるサービスもあったり、服を作りたい人と、作れる人のマッチングサービスも増えたしね。「服を作って売る」という流れが昔よりも手軽になってきてると思うの。でもお客様の顔が見えない分昔より売ることは難しくなっていると思う。
橋本:たしかにそうですね。私も好きなインフルエンサーのインスタをフォローして、そこで新商品のリリースとかを見たりもします。
座波:でしょう。だからこそ、多くの人に着てもらうブランドを作って長続きさせるにはお客さんや生産過程の人たちと信頼関係を築いていかないといけないと思う。
まとめ
・ブランドは「立ち上げること」よりも、「長く続けること」の方が圧倒的に難しい
・ブランドの立ち上げは各関係者との信頼関係が重要で、円滑に進めるために『生産管理』担当をアサインする
・「モノに対する責任の重さ」への理解がなければ、最終的にお客さんとの信頼関係は築けない
座波さんへの取材中、「信頼関係」という言葉が終始飛び交っていたように感じました。また、縁の下の力持ちのような仕事の『生産管理』は、服を買うときには分からない仕事だったので、これからブランドの立ち上げに関わることがある前に知ることができたのは、とても貴重な機会でした。
次回は、実際にブランドを立ち上げたインフルエンサーの方々への取材をしていきたいと思います!
それではまた!
photo by illustration by 今城加奈子