PRパーソンの今とこれから──PR TIMES小林保|パブリックファースト vol.1

2019 11.26

こんにちは、PR TIMESでプランナーをしている小林保と申します。

PR TIMESは、「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」というミッション実現に向けて、PR・コミュニケーション領域における様々な事業を展開しています。

たとえば、プレスリリースのプラットフォーム「PR TIMES」や、効果測定の「Webクリッピング」、タスク・プロジェクト管理ツール「Jooto」、カスタマーサポートツール「Tayori」など。また、プロダクト以外にPRプランニング事業なども手掛けています。

本連載では、「パブリックファースト」をテーマに、PR TIMESの各プランナーがデータや事例とともにPR・コミュニケーションについてご案内します。

今回は現在のメディア環境とPRの変化についてかいつまんで紹介します。

2010年を節目に変化したPR活動

プレスリリース配信サービスである「PR TIMES」の転機のひとつに、2010年頃からのスマートフォンの普及によるSNSシェアの拡大が挙げられます。

これまでは企業とメディアを繋ぐ資料だったプレスリリースが、誰しもが情報をインターネットで取得できるようになると、ニュースとして直接生活者に読まれるようになり、当時の月間100万PVから2019年には2000万PVを超え、単体で数万シェアされるようなプレスリリースも出てきました。

インターネットやSNSを介して情報取得と発信が容易になった2010年以前と以降で、PR活動におけるメディアリレーションズにも次のような変化が起きています。

メディアリレーションズを例に挙げると、テレビをはじめとしたマスメディアへの接触時間が長かった2000年代までは、マスメディアリレーションズがPR業務の中でも優先度が高く、テレビに出ればそれでOKという時代でした。

そこからインターネット上にメディアや情報が爆発的に増えたことで、私たちは能動的に情報を「検索」するようになりました。検索などからの接点を増やすためにも、WEBメディアとのリレーションも必要なPR業務に組み込まれていきます。

そして、2010年頃からはスマートフォンの普及に伴いSNSの利用が拡大すると、個人が誰でも情報発信可能になりました。発信者は、メディアもいればタレント、モデル、有識者、クリエイター、個性が光る一般人…と多岐に渡る状態で、それぞれの発信者に紐づいたフォロワー(情報の受け手)もいます。

このように、メディア環境が複雑化し情報量全体が飽和している中では、これまでのような大衆向けの一方向的な情報発信だけでは本当に届いてほしかった人たちからの理解や共感、行動を生むことは難しく、記憶に残りづらくなります。

最高のプロダクトをつくることだけでなく、自社のミッションや信念に基づいて、ストーリーを伝え共感を得たり、問題提起をして自分ゴトとして捉えさせ自己の体験としてくれる人を増やすことで、その人にとって好意的な記憶として定着し、より深い関係を構築することにつながります。その際重要なのは闇雲に広げるのではなく、まずは一番届いてほしい人たちのことを丁寧に丁寧に考え、伝えていくことです。

複雑化するメディア環境が及ぼす影響

今年初めてメディアへの接触時間は、WEBメディアが過半数を超えるようになるほど、インターネットの普及は進んでいます。その中で、企業情報との接点で言えば、広告、ニュースサイト、SNS、オウンドメディア、コーポレートサイト、など様々です。

こうしたメディア環境を整理するモデルとして、PR活動のガイドラインとしてPR協会も採用している、『PESOモデル』を紹介します。

従来、日本国内におけるPRパーソンが注力していたのメディアリレーションズでした。つまり、つまりニュース掲載につなげるために、メディア(Earned)との関係性をつくるあらゆる活動となるメディアリレーションズです。それが前述のようにメディア環境が変わり、インターネットの影響力が増してくると『PESOモデル』のメディアを面で捉えて、戦略的に発信することの重要性も見えてきました。

例をあげると、今年オイシックス・ラ・大地とクレヨンしんちゃんがコラボした交通広告は、Paidメディアである交通広告掲出を情報起点に、多くのSNSシェアが生まれTwitterのトレンド入りもし、ヤフトピ掲載など含むWebメディアやテレビでもニュースとして取り上げられる結果となりました。

▶▶ Oisix交通広告、クレヨンしんちゃんコラボ第三弾 みさえ、ひろしに続き、しんちゃんが登場 「かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう。」

これは、Paid→Shared→Earnedとメディアの「面」展開を生んでいます。こうした情報流通は広告を主にしてきた人、PRを主にしてきた人双方にとって将来の選択肢を広げるように感じます。

PR視点を持って生み出されたクリエイティブは出稿料を超えた露出を生み、本来果たしたかったであろう「必要としている人に情報が届く」可能性が高まっていきます。

インフォメーションだけでは動かない 消費行動の変化

情報過多時代の今、商品特長を単に伝えるだけのインフォメーションは埋もれやすく消費行動につながる可能性も下がります。

情報が埋もれていくことのないように、PR戦略で言えば、「点」ではなく「線」と「面」を意識する必要がでてきました。

たとえば、「線」での継続的な接触を狙って、切り口を変えた情報開発を行って複数回の情報発信を計画していきます。また、「面」での情報発信で言えば、前述した交通広告のように、発信したい情報を複数のメディアに多面的に展開していくにはどうしていくべきか、などを考えることもできます。

「きのこの山・たけのこの山 国民総選挙」事例

たとえば「線」の具体例としては、「きのこの山・たけのこの山 国民総選挙」があります。商品購入による投票を呼びかけたこのキャンペーン。開始や結果発表の情報発信だけでなく、投票の中間発表も2回行うことでリーチ総量の増加や期待感の醸成に成功し、最終的な投票数は約1600万票となりました。

▶▶ 「きのこの山・たけのこの里 国民総選挙」開催決定!選挙権制限もちろんなし!目指せ投票参加率100%!「きのこ党」 VS 「たけのこ党」 VS 新党「どっちも党」 の三つ巴

▶▶ きのこの山・たけのこの里 国民総選挙2018!1か月間で投票数300万票突破!たけのこ党、圧勝か…!?

▶▶ きのこ党 国民総選挙にて圧倒的不利な状況につき、“本気”の選挙活動を展開!きのこ党党員・きのはら信一が助っ人として参戦!?

PR TIMESで目にすることが増えた「エモい」プレスリリース

PR TIMES上では最近、いわゆる「エモい」プレスリリースを拝見することも増えてきました。法人化や資金調達、コーポレートデザイン変更をファクトにしながら、その背景や思い、未来を等身大の言葉で書き綴り、感情のある独自のストーリーとして展開しています。

学生時代、歴史の授業は出来事の暗記ではなくストーリーで覚えることをすすめていた先生がいましたが、それに近い感覚を持っています。

今のPRパーソンは、ファクトを組み立てストーリーにし、本当に届いてほしい人々に伝え続ける「語り手」のような側面も必要なのかもしれません。

たとえば、会員制カレーブランドで人気を博す『6curry』の法人化プレスリリースも、一人の受け手として読み込んでしまいました。

“会社化する、ということは経済的にも安定しなくてはいけません。

しかし私たちはサービスを均質化して回転率を高めて…という、いわゆる成功するチェーンレストランの道はたどりません。私たちは、1人ひとりの考えや魅力が混ざって多様な価値が日々育まれていく、これからの時代はそんなローカルの積み重ねの先にグローバルで通用するブランドが生まれると考えています。そして何より私たちが、そういう場所や、時代を楽しみたい。

大切にするものは変わらないけれど、かける気持ちの大きさや本気度が変わります。変えていかないといけません。スターバックスに対するブルーボトルや、マクドナルドに対するシェイクシャックのような、次世代を代表するカレーブランドになれるように。今まで以上に挑戦的に、大胆に、そしてさらなる愛をこめて。”

▶▶ カレーブランド「6curry」が法人化。コミュニティ拡大に向け、新たな展開へ。

また、ミレニアルコンテンツカンパニー『yutori』社の資金調達及び、コーポレートデザイン一新のリリースも、彼らや彼らの周りの人たちの想いが、一つのプレスリリースに詰まっていました。

こうした今のメディア環境と情報流通を整理していくと、PRパーソンがやれることの選択肢は非常に多岐に渡ります。

次の打ち手を探すPRパーソンのちょっとでも後押しとなるように、みなさんがパブリックファーストな「誰かの心を揺さぶる行動者」となりますように、そんな思いでこの連載を始めます。

次回は、企業やブランドの情報がどのような経路を辿り生活者に到達するのか、「情報流通構造の変化」をご案内します。


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