弁護士に聞く! SNSトラブルシューティング完全ガイド

2019 12.19

SNSには、普段の生活では会えないような人に会えたり、やりたかったことが人とのつながりによって叶ったりなど、人生を変える魅力的な力があります。

一方で、その気軽さゆえに、誹謗中傷や嫌がらせが起こったり、炎上などのトラブルが起こるケースも近年よく目にするようになりました。Twitterで過激な発言をしていた人が、煽られたと思ったフォロワーに殺害された事件。匿名の粘着質な人から人格否定をされ、心労で休職せざるをえなくなってしまったケースなど。SNSのネガティブな側面も、ユーザーが増えるにつれて浮き彫りになってきています。

こうしたトラブルに巻き込まれないために、私たちはどうSNSと向き合えば良いのか。また、トラブルに巻き込まれた時に、どう対処すればよいのか。今回は、インターネット上でのトラブルや問題に精通した弁護士の中澤祐一さんにインタビューをし、SNSでのトラブルとの向き合い方について、お話を伺いました。

【中澤佑一(なかざわ・ゆういち)】弁護士(埼玉弁護士会所属)。弁護士法人戸田総合法律事務所代表。削除請求やプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求などのインターネット関連事件や、知的財産関連の法律問題を中心に活動。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(中央経済社)など。

トラブルが起きたら、まずスクショを!

sagako:はじめに、そもそもSNS上でのトラブルの全体像についてお伺いさせて下さい。ここ数年、私の観測範囲では、SNS上でのトラブルが増えてきているように感じています。中澤先生は、こうした問題と向き合うのがお仕事かと思いますが、トラブルの数は変化しているのでしょうか?

中澤:増えていると思いますね。SNSやインターネットは世界規模でユーザーが増えているにも関わらず、共通のルールがあるわけでも無ければ、マナーの捉え方も人それぞれです。また、法規制や判例も、他の分野に比べれば数多くありません。一方、ITは日々圧倒的な速さで変化・進歩しています。弁護士も日々のノウハウの蓄積が欠かせない分野です。

sagako:そういう意味では、ユーザー側もそのトラブルとどう向き合うべきか分からない人は少なくないと思います。たとえば、SNSを日頃使う人が特に気になる、SNSで嫌な人と絡まれた時に、私たちはまず、何をすればいいのでしょうか?

中澤:まずは、証拠の確保ですね。具体的には、スクリーンショットを撮ってください。その時意識していただきたいのは、URLやアカウント名をしっかりと押さえること。URLがあれば、データが遡りやすくなりますし、アカウント名があればあとからその人を追いやすくなりますから。アプリからだとURLがでない場合もありますが、ブラウザからであれば出せますので、一手間かけても、情報を押さえましょう。

sagako:アンチのコメントなどが付いた投稿は、スクリーンショットを撮ったら消しても良いのでしょうか?見るたびに辛くなりますし、エスカレートしてコメントが増えるのを避けるためにも、消したくなりそうです。

中澤:できれば、残しておいてほしいです。投稿を消してしまうと、一緒に通信ログも消去されて投稿者の調査ができなくなってしまうことがあります。

また、Twitterやプロバイダが保有している通信記録は短期間しか保存されず、時間とともに無くなってゆきます。そのため時間経過によっては投稿者を調査することは技術的に不可能となります。投稿者のトラブルが起こったらなるべく早く相談に行きましょう。たまに、数年前に起こったトラブルを遡って相談に来られる方もいらっしゃいますが、その場合話を進める上でも苦労する場面が多いです。

sagako:なるほど、まずは証拠を押さえ、その上で早めに相談に行くと。これは中澤先生に聞く話ではないかもしれませんが、相談相手は、警察や弁護士だとどちらがいいのでしょうか?

中澤:ポジショントークになってしまいますが、弁護士の方が良いと思います。警察の場合、SNSでのトラブルは実害が起きてないこともあり、対応が難しい部分もあります。一方、弁護士はお金の授受が発生しているのもあって、基本的には動きますから(笑)。SNSのトラブルに明るい弁護士であれば、損害賠償請求までたどり着くのも、そう難しくないでしょう。

sagako:なるほど。弁護士の方が、トラブルレベルでの相談には向いているんですね。弁護士はどのように選べばいいんでしょうか?

中澤:おすすめは、弁護士事務所のHPなどに、SNSトラブルの相談にのりますと掲載しているところ。そういう弁護士事務所は、訴訟を起こすまでの手順をふまえていたり対応に慣れているので、スムーズに話が進められます。

あとは、SNSでのトラブルの場合、相手の個人情報を明らかにするまでの早さが肝なので、相談している段階でメールや電話の対応が早いところを選ぶのも、確実に解決するためのポイントです。

「お金と時間がかかりそう…」裁判に必要な費用と期間は?

sagako:訴訟を起こして慰謝料などを請求したい場合、弁護士費用などはどれくらいコストがかかるのでしょうか?以前ニュースになっていた横浜DeNAベイスターズの井納翔一投手の裁判では、弁護士費用で77万円かかったと書かれていました。

中澤:実名アカウントなど相手の個人情報がわかっているのであれば、請求したい金額にも寄りますが総額で50万円程度となるケースが多いのではないでしょうか。ただ、個人情報がわからない場合には、まず相手の調査から進める必要があるため弁護士費用が膨らんでいってしまうんです。トラブルが発生してから、損害賠償請求までには大きく二つの費用が発生します。というのも、実は大きく二種類の裁判しないといけないからなんですよ。一つ目は情報開示の裁判、しかもこれは原則2回の裁判です。2つ目が、損害賠償請求の裁判です。

情報開示には、まずTwitter本社に裁判所命令を発行し、裁判を行う必要があります。これに平均で20〜40万円かかります。

またTwitterの個人情報に掲載されているIPアドレスから携帯電話や住所特定をするために、今度は通信会社に対して個人情報の開示を求める裁判も必要です。これも平均で20万円ほど。2〜3社やるとなると40〜50万円はかかりますね。

sagako:そもそも相手を知るために、何度も裁判を起こさなければいけないんですね。

中澤:そうですね。相手が匿名の場合は、最低でも2回裁判を起こす必要がある。特定できた後、損害賠償の弁護士費用がかかるため、合計で100万円以上いってしまう場合もあるんですね。

sagako:結構、費用がかかりますね…。

中澤:ただ、井納投手のように、慰謝料に加えて相手を調べるために行った裁判の弁護士費用を請求できます。無料相談ができる弁護士事務所もあるので、SNSによって精神的に追い詰められたら、お金は一旦気にせず、すぐに相談して欲しいです。

sagako:弁護士に相談してから判決がくだされるまでの期間はどれくらいですか?

中澤:相手の個人情報を特定するまでに半年、裁判で判決がくだされるまでに1年弱かかるでしょう。日本の裁判制度上の問題で、相談してから判決がくだるまでに2年弱かかってしまうんですよね。それは課題でもあり、私自身も改善してほしいと思っています。

sagako:かなり長い期間、戦わなければいけないんですね。例えば、その期間の精神的ストレスから仕事が続けられなくなり収入がなくなってしまった場合は、収入分の損害賠償金を請求できるのでしょうか?

中澤:簡単ではないと思います。「SNSのせいで休職した」という因果関係を立証できないと請求はできません。フリーランスの方などで、その時間純粋に仕事ができないといった場合であれば、可能性はありますが、因果関係が明確でない場合には、損害賠償は厳しいでしょう。

そもそも、SNSでのトラブルで勝つハードルは決して低くありません。誹謗中傷と、それによって引き起こされたトラブルの因果関係は立証しづらい。ただ、本人にとっての影響は計り知れませんから、裁判官が適切に解釈をできるよう、証拠を可能な限りそろえ、因果関係をしっかりと組み立て、訴訟を起こすことが欠かせないと思います。

加害者になりうる危険性が潜むTwitterのリツイート

sagako:これまでSNSでのトラブルに巻き込まれた際の対処法をお伺いしてきましたが、一方で、自分が加害者になってしまう可能性もあるのでしょうか?

中澤:Twitterでいうなら、「リツイート」は気をつけたいですね。例えば、フェイクニュースだと知りながらリツイートすることは、不法行為に加担したと見なされ訴えられてしまう可能性もあるんです。

元大阪府知事の橋下徹さんがリツイートによって名誉を傷つけられたとしてジャーナリストを訴えた事件では、リツイートが名誉毀損になるとして認められました。元ツイートの内容にもよりますが、このケースではリツイートは投稿に賛同する表現行為として、名誉毀損になると判断されたのです。

sagako:ちょっとしたSNS上での行動が、名誉毀損にあたってしまうんですね。よくプロフィールに「リツイートは賛同の意ではありません」「私が所属する組織には一切関係ありません」などといったコメントを入れている方もいますが、これがあれば免責になるのでしょうか?

中澤:意味はないですね(笑)。免責を入れておいても、拡散したという事実は消えません。所属組織に関しても、法的措置を会社に取らせることがなくても、リツイートした人の属性は調べられてしまうだろうし、「こんな人雇っている会社ってどうなの?」と会社自体のブランドを落としかねない。

もしリツイートなどで、加害者側に加担してしまったら、すぐに投稿を消し、謝罪をすること。それをするだけでも訴えられた際に、損害賠償額が軽くなる可能性があります。関わらずスルーする力が、トラブルに巻き込まれないためには必須なのは間違いありません。

sagako:スルー力、鍛えます(笑)。これだけトラブルが起こっていると、規制が今後入ったりして、誹謗中傷はなくなっていくのでしょうか?

中澤:私は誹謗中傷は無くならないと思っています。例えば、Twitterで規制されて悪口がつぶやけなくなっても、別の場所で形を変えてずっと残っていくでしょう。SNS自体が変わっても、誰かと自分を比べて妬ましく思ったり、嫌味を言いたくなったりという人間の本質は変わらないでしょう。

sagako:なるほど。

中澤:ただ、SNSでのトラブルの対処方法は変わっていくと思います。「SNSのトラブルの証拠だけでも、休業との因果関係が立証されるよね」となってしまえば、慰謝料や損害賠償はよりとりやすくなります。そのことが多くの人に認知されれば、それを恐れて炎上などのトラブルのもとをひき起こそうとする人は、減っていくと考えられます。

SNSを楽しいものに。これからのSNSとの付き合い方

SNSはいつでも気軽に利用できるように設計されています。ただ、その気軽な投稿やコメントから、大きな問題になって事件になりうる。被害者にも加害者にもなりうるのが、SNSの難しさといえるでしょう。

だからといって、「もうSNSは怖くてできない」で終わって欲しくはありません。そこにはさまざまな可能性がありますし、SNSで人生がよい方向に変わった人は多くいます。よい側面、悪い側面双方を認知して、そのメリットをちゃんと享受できれば、それに越したことはありません。

ただ、そのためには、悪い側面へどう対処すべきかを知ることも欠かせません。人に直接言ったら傷つくようなことは投稿しない。本人に言えないことは書き込まない。トラブルに巻き込まれたら、抱え込まずに相談する。難しく考えすぎずに、現実世界に置き換えた行動が、これからのSNSとの付き合い方になっていくのではないでしょうか。

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