「この商品どうやって使ったらいいか分からない」――フライングタイガーの購入者が抱える課題を、Pinterestはどのように解決したのか?

2017 12.27

「お店で見た時は気に入って購入したけど、いざ使おうとするとイメージと違った。」

消費者の購入前後のギャップを埋める施策に悩むメーカーや小売業の方々は多いのではないでしょうか?

今回は、そんな悩みを解決する取り組みをkakeru編集部で取材しました。今年11月に行われた、「フライング タイガー コペンハーゲン×Pinterestのクリスマスイベント」です。

Pinterest(ピンタレスト)といえば、kakeruでも度々取り上げていますが、「自分の隠れた欲求やアイデアをビジュアルで見つけ、整理することができる」というのが大きな特徴です。

とはいえ、まだまだ国内では取り扱う企業も多くはないPinterest。しかし、今回の取材を機に考えが180度変わりました。
来年以降、Pinterestが企業や消費者問わず、あらゆるシーンで活躍することを確信しました。

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写真左:フライング タイガー コペンハーゲン社マーケティング部部長 柘野英樹さん(以下、柘野)
▶▶フライングタイガーの公式ブログ

写真右:Pinterest Japan社マーケティングマネージャー 小串良輔さん(以下、小串)
▶▶PinterestJapanのブログ

お客様の自由な発想やインスピレーションを刺激する商品を展開している企業の方々にもぜひ参考になれば嬉しいです。

「もっとこうしたい!」とアイデアは溢れるほど出てくるけど、意外とまとまらない。

kakeru編集部:表参道の店舗、拝見しました。とても素敵なクリスマスデコレーションでわくわくしました!改めて企画の概要について伺ってもよろしいでしょうか?

小串:まず、フライングタイガーの今年のクリスマスシーズンのキャンペーンコンセプトは「What kind of Christmas do you want?」でした。そのコンセプトに則って、僕たちもお手伝いさせて頂くことになりました。

kakeru編集部:Pinterestはどのように関わったのでしょうか?

小串:このコンセプトに沿って、「あなただけのクリスマスアイデアを、Pinterestを使って発見して整理していき、インスピレーションが沸いたアイデアをフライングタイガーのグッズで実現できる」ということを体感できる企画をお手伝いしました。

当日は、企画の趣旨を体験してもらうためにフライングタイガーのアンバサダーである女性3名に表参道店にお越し頂きました。彼女たちにはPinterestを使ったワークショップ、そして実際にショッピングもしてもらい、最終的にはクリスマスパーティーのデコレーションを完成させてもらいました。

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引用元:Pinterest Japan Blog

kakeru編集部:その内容がまとまっているのがこちらの動画なんですね。

小串:彼女たちには、Pinterestのグループボード(※)を使ってもらい、特にテーマを設けずに、各々が良いと思うクリスマスのアイデアをどんどん集めてもらいました。それがこちらのボードです。


(※)グループボードとは、友だちや世界のピナー(Pinterest愛好者のこと)と一緒に好きな写真やアイデアを集め、一つのボードを作り上げていくことが出来る機能(参考はこちら

小串:グループボード内で他人のアイデアも見れることで想像力が触発されたのか、5分程で100ピン以上一気に集まって(笑)。 その後、彼女たちに「共通するところってありますか?」と質問したんです。すると、「ワクワクすること」という共通したキーワードが出てきました。クリスマスといっても様々な雰囲気があると思うんです、例えばシックな雰囲気だったり、子どもにとって楽しい雰囲気だったり、恋人同士で楽しめるものだったり。そんな中で「ワクワクする」というのが今回の3人には共通したテーマでした。

kakeru編集部:すごく楽しそう! その後は、どのように進められたんでしょうか?

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小串:実際に、フライングタイガー表参道店で、「ワクワクする」というテーマに合う商品を、グループボードを見ながら選んできてもらいました。その後は、各々が選んだ商品を並べて見てみて、それぞれの理想のイメージに対して取捨選択と不足しているものを改めて選び直し、実際にデコレーションに移りました。

kakeru編集部:それで完成したのが、見せていただいたクリスマスデコレーションだったんですね。

小串:ツリー・テーブル・部屋の飾りつけと担当を分けて、デコレーションをしてもらいました。完成したデコレーションは、フライングタイガー表参道店でキャンペーン期間中に展示してもらいました。

「オンラインからスタートし、店舗に来ていただくまでのプロセスを一つのストーリーとして発信できたことでアイデアの宝庫のプラットホームであるPinterestさんと店舗を持つ弊社の相互の良さが補えました。」と語るフライングタイガー担当者の柘野さん。

ここからは、今回の取り組みに至った背景をフライングタイガーの担当者である柘野さんに、同社に対して感じている課題を踏まえながらお話ししてもらいました。

「この商品、どうやって使ったらいいか分からない…」自社調査で明らかになったフライングタイガーの課題とは?

kakeru編集部:まず、今回の取り組みはいかがでしたか?

柘野:グローバルから見てもPinterestとの取り組みは初めてでしたが、どちらかのプロモーションというわけではなく、双方の良いところを活かした良いプロジェクトだったと思っています。

あえて、お客様に「シーンの提案」をしないフライングタイガー

kakeru編集部:御社は他にも様々なSNSを利用していると思うのですが、今回Pinterestに注目したのはどういった点でしょうか?

柘野:一番はPinterestに対する愛も深く、今回の取り組み対してとても熱意を持って協力してくれた小串さんが好きだからですね(笑)。 という半分冗談は置いておいて、いくつか理由はありますが、弊社が実施しているブランド調査で明らかになった課題があったんです。

kakeru編集部:それはどういったものでしょうか?

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柘野:「買ったはいいがどうやって使ったらいいのかわからない」というお客様の声が調査でも非常に多かったんです。ありがたいことに沢山のお客様が店舗に足を運んでくれて、商品を購入していただいているんですが、いざ自分の家に持ち帰ると、「なんで買ったんだっけ?」となってしってクローゼットの中に閉まってしまう…といったことがよくあるようなんです。

kakeru編集部:たしかに、私もよくあります(笑)。御社だけの課題ではなさそうな気もしますね。

柘野:そうなんです。でも一方で同じ商品を買った方の中には、上手にデコレーションしたり、スタイリングしたりできる人もいますよね。その違いってなんだろう?と思いまして。このギャップを埋めるような取り組みを何らかの形でお客様に提供したいと常々考えていました。

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kakeru編集部:同じように雑貨を取り扱うお店やインテリアショップなどではコーディネート提案のようなものも行いますよね?

柘野:まさにそこが弊社の課題でした。弊社は購入して頂いたお客様の自由な発想、アイデア次第で様々な利用シーンが生まれる商品です。ですので、こちらから「こういう風に使ってください」「正解はこれです」といったコーディネートやシーンの提案はあえてしないようにしているんです。

kakeru編集部:たしかに難しそうですが、上手くいけば自分だけの組み合わせができて、お客様もショッピングを楽しめそうです。

柘野:たまたまの際にPinterest社の小串さんから連絡を頂いて出会う機会がありました。Pinterestを使えば、僕たちが提供したいフライングタイガー本来の価値をお客様に体感してもらえるなと、活用のイメージもどんどん湧いてきました。

「Facebookはテレビの情報番組」「Instagramは雑誌」、フライングタイガーが考える各SNSアカウントの役割

kakeru編集部:Pinterestの他に、御社では力を入れているSNSは何になるんでしょうか?

柘野:本社があるヨーロッパでは、Facebookがかなり力を発揮してますね。なので、僕たちの日本に対して、「もっとジャパンもFacebookに力を入れようよ!」と言われていました(笑)。

kakeru編集部:日本で力を入れているSNSは何でしょうか?

柘野:ですね。シーンの提案をあえてしないとはいえ、お客様にはニーズがあるのは明らかなので、僕たちも頭を悩ませておりました。とはいえ、店舗の作りや会社としての方向性を変えるわけにはいかない中で、Instagramはお客様のニーズを満たす機能を果たしてくれているのではないかと思います。

kakeru編集部:たしかにInstagramは御社の商品とも相性が良さそうです。

柘野:お陰様でファンの方々にも支えられて、投稿する写真にも多くのエンゲージメントを発揮することができました。

kakeru編集部:他にもSNSアカウントをお持ちだと思うのですが、活用方法についてお聞きしても良いでしょうか?

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柘野:一度僕たちの中で、それぞれのSNSの立ち位置を整理したことがあるんです。その中でFacebookはテレビの情報番組のような「メディア」としての役割を担っています。ニュース性のある情報との相性が良いなという感覚が強く、新しい商品のリリースや面白い取り組みの情報を発信する場としては効果的だなと。

一方で、Instagramは「雑誌」に近い位置づけとして活用しています。フライングタイガーが、これまで出来なかったシーンの提案やスタイリングのケーススタディなどをお客様に提供できるようになりました。

kakeru編集部:Twitterはどうでしょうか?

柘野:TwitterはFacebookよりも、より速報性を持った情報を発信できて、かつフライングタイガーについて言及してくれているお客様とコミュニケーションができるところが魅力的ですね。いわゆるソーシャルリスニングの役割を果たしてくれています。

(※)ソーシャルリスニングとは、SNSで消費者が発信している情報を収集・分析しマーケティングに活用していくこと

今後も活用方法を模索しているPinterest。次なるステップは「効果計測」と「新たな活用方法」

Instagramを中心に積極的にSNSを活用しているフライングタイガーに、運用していくにあたり見ている指標やPinterestとの今後の取り組みの中で期待することについてお聞きしました。

お客様に「リピーター」になってもらうために、大切にしている指標はエンゲージメント

kakeru編集部:様々なSNSを活用されていますが、どのような指標で成果を見ているのでしょうか?

柘野:各SNSに共通しているのは「エンゲージメント」ですね。

kakeru編集部:エンゲージメントに至った経緯は何なんでしょうか?

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柘野:日本進出当初は、何か新しくて面白いブランドが日本に来たぞとお客様に興味を持ってもらえて、多くの方にお越しいただいたんですが、「リピートがされない」というジレンマを抱えていました。そこで、どうすれば継続して足を運んでもらえるか?といったことが全社的な課題でした。

kakeru編集部:そこでSNSへも力を入れていったわけですね。

柘野:もちろん店舗スタッフの対応などもそうですが、リアルやWEBサイト、SNS全てにおいて、お客様と継続的なコミュニケーションを取っていき、皆さんのニーズを刺激し続けられるかといった点が見るべき指標でした。なので、エンゲージメントもそうですし、それによるリーチがどれだけ増加したかといったことがベースとしての考え方です。

kakeru編集部:そもそも、Pinterestのユーザー層とフライングタイガーが向き合っているお客様とはマッチしているのでしょうか?

小串:具体的なユーザー属性などは非公開なのですが、年齢や性別ですと20~30代女性は多いですね。積極的に利用されているのは、ある程度時間や生活面でも余裕のある方々で、かつ国内ですとアーリーアダプターのような情報感度が高い方が多いですね。

柘野:僕たちが向き合っていきたいボリュームゾーンなのは、まさにそういった方々です。彼女たちの可処分時間の中で、フライングタイガーに出会ってもらい、継続的にコミュニケーションを取れる機会を伺っています。

Pinterestでは、どのような指標を設定すべきか?

kakeru編集部: 今後はPinterestも積極的に活用されると思うのですが、その際に見ていくべき指標とはどのようなものなのでしょうか?

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小串:正直なところ、国内ではまだまだ明確な指標を定めて運用している事例は少ないのが現状です。グローバルまで拡げてお話すると、大きく2つです。一つ目は、Pinterest上の自社の製品やコンテンツがどれだけ保存(save)されたか?(※)つまり、どれだけ多くの人がブックマークをしてくれたかを指標としています。二つ目に、それらを経由して自社サイトに誘導できているかどうかが基本的な指標となっています。

※保存(save)とは、過去にはRepin(リピン)だった機能のこと。他のユーザーがPin(ピン)した画像を自分のボードに貼り付けること(詳しくはこちら

kakeru編集部:インテリアやDIYの写真共有サービス「RoomClip」などは、SimilarWebを見る限りですが、Pinterestからのトラフィックが他のSNSに比べて多いですよね。(※)

(※)RoomClipはアプリが中心のため、SimilarWeb上のデータはあくまでブラウザ版の参考値となります。

小串:例えばフライングタイガーですと、まずは保存(save)数ですね。どれだけ商品や発信しているコンテンツをユーザーに保存してもらえるかは、何においても先に始めるべきだと思います。そのためにも、僕たちも頑張らないといけないのですが、今回の取り組みのようにフライングタイガーが大切にしている「お客様の自由な発想を刺激する」ということを、Pinterestを活用すればさらに促進され、頭の中のアイデアを実現できるということを伝えていく必要もあります。

kakeru編集部:他にも見るべき指標はありますか?

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小串:これは今後Pinterest上でももっと詳細に見ていけるようにしていくのですが、一言でいうと、Pinterestを使えばお客様の頭の中を覗くことができるんです。

kakeru編集部:お客様の視点…?具体的にどのようなことでしょうか?

小串:Pinterestの機能では、ピンをした画像をオリジナルのカテゴリ名で保存できます。その保存先をボードと呼ぶのですが、自社の製品がどういうアイデアで保存されたのか、ボードの名前も重要になってくると考えています。

例えば、今この場にある紙コップでも、ある人は「コップのデザイン」とボードに保存していて、別の人は「クリスマスの飾り付け」とボードに保存するかもしれません。ボードの名前を見ていくと、自社製品のデザインが注目されているのか、クリスマスの飾り付けとして注目されているのか、などお客様の視点やニーズ、アイデアが見えてきます。

kakeru編集部:たしかに他のSNSでもリーチ数やエンゲージメント率など数値の面を見がちですが、ユーザーがどのような点に対して「いいね」と感じたかは可視化しづらいですよね。とくにPinterestの特性として、隠れた欲求と言いますか、潜在的なニーズを掘り起こすのに適しているかもしれませんね。

今後の展開は、よりお客様の発想力を刺激し続ける取り組みを検討

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kakeru編集部:今後Pinterestを活用して取り組みたいことや、新たに解決したい課題などはありますか?

柘野:InstagramやPinterestを通して、「憧れの部屋や生活」のイメージを持っている方は多いと思うのですが、なかなか実現には踏み出せないと思っている方のお手伝いができたらいいですね。

kakeru編集部:具体的にはどういったことでしょうか?

柘野:いわゆるインスタグラマーじゃないと、クリエイティブでお洒落な生活はできないんじゃないか、と距離感を持つ人はまだまだ多いと感じています。たとえば、インテリアコーディネートが得意な方と、自信がない方をPinterestを通じてマッチングしたいですね。

「息子の友だちの誕生日会を作ってあげたい」というオーダーに、コーディネーターがPinterestでイメージを共有して、その通りにお部屋を仕上げてくれたりとか。Pinterestによって漠然とあるイメージの可視化が簡単にできるので、そういったマッチングができたらいいな、と思ってます。

小串:いいですね!実現したいです。僕たちとしては、業種を超えたプロジェクトも今後増やしていきたいと思っています。Pinterestとフライングタイガーさん、あと数社とコラボレーションしてフェスやパーティーの施策とかも取り組んでいきたいですね。最近言われているモノ消費からコト消費の現象のように、オンラインからリアルな場へ感動を与えることを意識していきたいなと思っています。

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柘野:店舗を持つ小売店としての理想形は、企業として作り上げたい世界観にお客様が共感や期待をして、来店し商品を購入してくれることだと思っています。

そのためにはお客様自身も欲しい商品や使い方などを具体的にイメージできていることが大切だと思っていて、そのサポートをPinterestなら実現できるんじゃないかと感じています。

Pinterestは、私たち日本人のクリエイティビティを刺激してくれるか?

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もともとフライングタイガーの担当者である柘野さん自身は、Pinterestを以前から使っており、仕事で使う「素材集」のような印象を抱いたそうですが考え方が180度変わっているそうです。

ビジネスシーンでしか活用できないと思っていたPinterestが、実はプライベートな日常の習慣の中にも溶け込むことができる様を今回の取り組みで見れたことが純粋に面白く、新たな発見だったと話していました。

PinterestやInstagram、そして他のSNSもさらに上手く活用しながら、お客様の日常のワンシーンにフライングタイガーをいかに自然に溶け込ませることができるか、それが今後取り組んでいくことだと締めくくりました。

また、日本人のクリエイティビティに対する自信の無さについて、柘野さんは危惧していました。

もともと、日本人は諸外国から見るとクリエイティビティの高い国と思われており、料理を作るときに調味料を組み合わせたり、収納や掃除の工夫など、日々の生活の中でクリエイティビティを発揮している。それにもかかわらず、アートやデザインの知識、そして才能がないと「自分はクリエイティブではない」と思ってしまいがちだ、と。

たしかに、人と違うことを恐れたり、型にはまった考え方をしがちなのは私たち日本人によく見受けられるかもしれません。そんな狭くなってしまった視野を拡げてくれる可能性をPinterestには期待できるかもしれません。

今後も、Pinterestを用いた活用方法については引き続き注目していきたいと思います。

 

それではまた!

ライター:


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