Facebook中の人に聞いてきたシリーズ第3弾は、公共政策部長の山口琢也様。自治体とか政府官庁のFacebook活用についてあれこれ聞いてみましたよ。
現在、自治体でのFacebook活用状況は?
田村 以前ですね、自分のブログに公共団体様のFacebook活用について書いたことがあるんです。
山口 あ、ほんとだ。検索したら出てきました!
田村 自治体のソーシャルメディア活用案件があったので調べたんです。せっかく調べたので公開してみました。2013年ぐらいですねこれ。これをご覧になった新聞社さんとかから取材もしてもらったんですよ。ただもうこれ、書いてから2年経ってます。山口様がお感じになっている範囲で、現状どうでしょう??
山口 海外はもちろん、日本もユーザー数がどんどん増えるにともなって、特にのような素晴らしいモデルを参考として、自治体も活用を進めていこうという動きになってきていると感じています。
正確な数は私のほうでも把握はしていないのですが、公共団体でのFacebookページ利用は拡大している実感はあります。
情報の透明性とインタラクティブ性が強み
公共団体がFacebookページを運用することのメリットとしては、まず透明性でしょうか。自治体が何をやっているのかを住民の皆様に詳しくタイムリーに知らせることができます。
またよく伺うこととしては、発信する内容にメディア等のバイアスがかからずに内容をストレートに伝えることができるという発信側のメリットです。テレビや新聞等では、紙面や尺の都合により本当に言いたいことを言う前に切られたり、内容を省かれたために誤解が生じる、といったこと起こりえますからね。
さらには、インタラクティブ性ですね。国民や住民の声を直接聞ける手段として非常に有効だと思います。
田村 なるほどー。確かいちばん最初に自治体のFacebookページ利用という点で注目されたのが、確か武雄市の…
山口 そうですね。佐賀県の。
田村 ですです。あれから各地の自治体さんが取り組み始められた印象があるんですが、その中でも沖縄県の金武町という町がすごくおもしろい使い方をされてるんですよ。これなんですけど…
山口 ほうほう。
田村 これがですね。なんといちばん始めのタイムラインの記事が1584年なんですよ。
山口 (笑)
田村 で、見ていくとですね。全部その当時のできごとが投稿されてるんです。たとえば、1673年のところをクリックすると…
金武間切の範囲が縮小されました(笑)。たぶんこれはなんか当時の自治体の境界線の位置が変わったとか、そういうことでしょうね(笑)。
山口 これはおもしろい!!
田村 いや、もっとおもしろいですよ。1900年代に入ってくると写真も出てくるんです。
こういうのって、歴史資産を売りにしておられる自治体さんなんかは、絶対マネするべきだと思うんです。
山口 いや、これは参りました。すばらしい使い方だと思います。
田村 自治体さんだけじゃなくて、企業様の場合でも創立から現在まで、ずーーっと社史のようにしてもおもしろいですよね。
たとえば沖縄に旅行に行くとき、水族館に行こうとか離島を回ろうとかは考えると思うんですけど、「金武町に行こう」とは考えないわけじゃないですか。そこで事前にこのページを見ていると、高速道路で「金武」って文字を見つけるとこちらも「おっ」となるわけですよ。
あとPRとして「ウチのFacebookページ、おもしろいから見てくださいね!」って言えますよねこれ。
山口 言えます。こうなると教育にも使えそうですね。外に向けての誘致だけじゃなくて、その町に住んでいる人たちに向けて、この土地ではどんな歴史があったのかを気軽に共有することができますね。
やっぱりリテラシーが無いと難しい?
田村 金武町さんのFacebookページの紹介記事も書いたことがあるんですが、その時に現地から連絡があったんです。「取り上げてくれてありがとう」と。 お聞きしてみると、地元のサイト制作企業さんがバックアップされていたようですね。やはりうまく運用するためには、ネットやソーシャルに対しての知識も必要なのかなー、って思ったんです。
山口 おっしゃるとおり、武雄市や鯖江市などIT利活用で先進的と言われる自治体の例を見ても、そうした知識がある人がいるかいないかが鍵だとよく耳にしますね。
田村 企業の場合は営利団体ですから、PR効果を含めた一定の成果があるのであれば、専門家を雇ってでもやってみようとなるかもしれません。でも、自治体さんの場合は難しい状況があるんじゃないかなぁ、とも思うんです。
山口 そうですね。ただ、一方ではSNSそのものがどんどん使いやすくなっている面もありますし、そもそも個人でFacebookなどをやってる人が ページを運営するようになりますので、敷居はだんだん低くなっていくのではないかなと思います。
田村 みんなが使い慣れてきてますからね。
山口 そうです。特に中央官庁の広報室の皆様とお話していても、「私は自分のページももってます」という方が増えていると感じています。
低コストで全国に情報を伝達
田村 前に企業さん向けのインタビューをさせて頂いたんですが、Facebook広告の活用についてお話し頂きました。一方今回は自治体のFacebook活用についてなのですが、自治体で広告を使われているような例とかありますか?
山口 過去に使って頂いた例はありますね。
田村 それってどんな使い方なんでしょう。LikeAd(ファンを増やすための広告)が多いんでしょうか。それともPostAd(投稿コンテンツをファンに届けるための広告)が多いんでしょうか。コンバージョンってなんなんだろう…とか…
山口 コンバージョンの定義もいろいろあると思います。企業の場合だと特定のサイトへの誘導だったりリアルでの集客であったりするわけですよね。そこは自治体であっても同じような考え方で良いと思います。
田村 そうか。何か告知をしてサイト誘導。職員募集!なんかいけそうですね。それとかお祭りなどのイベントへの集客とか。自治体でもありますね。
山口 旧来のメディアを使って全国的に「来てください!」とやると、それこそ莫大な金額になりますし、こまめに発信することもできないと。さらに詳細な部分まで伝えることは比較的難しくなってしまいます。そういう中で、投稿ひとつひとつでも広告にできるということはメリットだと思います。
その場合、Facebookページを開設し、いきなり大きな金額をつぎこむというよりは、まず少額で広告を活用してみて、効果を測っていくというのがよいのではないでしょうか。
田村 実は今年の2月宮古島に行ってたんです。宮古島って夏はたくさん観光客が訪れるんですが、2月3月はだいぶお客さんが減っちゃうらしいんです。
でも宮古島の2月って、東京とか大阪のゴールデンウィークぐらいの気温で、すごく過ごしやすいんです。こういうことって、発信しないとみんな知らないじゃないですか。「なんとなく暖かそう」ということはわかってても。
なので、Facebookで現地の様子を投稿しながら、その様子を日本全国に発信するということはやってましたね。
山口 田村さんのような投稿に対する広告のターゲティングもいろいろできます。宮古島なら「スキューバーダイビング」とか「マリンスポーツ」とか、趣味軸でのキーワードを使って、ターゲットへのリーチを増やすのも効果ありそうですね。
安倍総理も注目するFacebookの◯◯機能
田村 中央官庁はどうでしょう。安倍総理のFacebookページなんかは有名ですよね。
山口 官庁や政治家の先生方がFacebookを使われるようになったキッカケは、2013年のいわゆるインターネット選挙解禁のタイミングからですね。各政党本部からもメジャーなソーシャルメディアは使っていこうという方針が示されたと伺っています。 安倍総理自ら積極的にご利用頂いていますね。
田村 安部総理は奥様もやっておられますよね。
山口 奥様もよく使って頂いてますし、今年の5月にマーク・ザッカーバーグとご面会頂いた際も、すぐにその様子を投稿していただいたきました。スタッフの皆様の話では、総理からの直接のご指示もあるとかないとか…。
田村 へーーーー!
山口 最近では動画が大変効果が高いことに注目頂いているようです。
田村 首相官邸とか安倍総理のFacebookページって、ときどきすごいコメントがついちゃうときがあるじゃないですか。ひどいコメントが。ああいうのってどう捉えられているんでしょう?
山口 公的な身分の皆様は皆さん苦労されていますね。アメリカのオバマ大統領やホワイトハウスなどのFacebookページも世界中からひどいコメントが寄せられることもあるようです。
勿論、Facebookの規約に違反しているような投稿には、「報告する」機能を使っていただき、我々のほうで適切に対応することができますし、その上に各ページのポリシーを明記しておき、どういったコメントを非表示・削除するかといったことを事前に了解頂いておくというのも効果的です。
ただ、ある程度様々な意見を持った方が投稿されるということを前提として運用頂くのがよいかと思います。ホワイトハウスなどはまさにそのような運用ですね。
田村 まあそのへんは覚悟の上でされているというのはあるでしょうねー。そういった「ご意見」ってオンライン、ソーシャルメディアだけじゃないでしょうからね…
公的機関でもゆるキャラが
山口 最近のおもしろい動きとしては、10月からマイナンバー制度というのが始まるのですが…
田村 はい、まだ僕は詳しく知りませんがチラッとネットのニュースで見たことはあります(笑)
山口 そこで「マイナちゃん」というキャラクターがFacebookページで「マイナンバー日記」みたいなのをつけているのを知っていますか!
田村 おおお、ゆるキャラ!
山口 こんな風に中央官庁のイニシアティブごとにFacebookページをうまく使って頂いているところも結構増えてきました。
自治体・官庁もグローバルアプローチが必要な時代
山口 Facebookの投稿は個人で見ているPCや手元にあるスマホの画面に出てくるので、なんとなくテレビで流れてくる情報よりは、より一層濃い効果があるのではないかと思っています。
田村 なるほど。そうですね。発信する側からすると、見ている人の手元に飛び込んでいけるというのは強みですよね。
山口 最近世界のポリティクスの世界でよく聞くのは「パブリック・ディプロマシー」という視点での情報伝達が必要だということです。簡単にいいますと、要人外交等だけでなく、各国の世論にSNSやその他のメディアを使って直接的に働きかけるということです。日本語では「体外広報戦略」というように言われることもあります。
海外に向けて発信するためには、一国だけで流通しているメディアで伝達しようとするのではなく、直接外へ伝えられるオープンなプラットフォームでグローバルにリーチする必要があります。その視点でも、Facebookは役立つと思います。
田村 そういう意味では絶好のツールですもんね。Facebookって。
山口 今までの各国政府の考え方だと、対外広告の際に「民間のサービスを使っちゃだめでしょう」という認識で、独自のサーバーを立てて独自ドメインを取って、 そこに辞書みたいなサイトを作ってくる人を待ちぼうけするということが多かったと思うのですが、これではダメだということに既に日本の官公庁のみなさまも気づいておられます。
田村 みんながいるところに露出することが必要ですもんねー。実は僕の周りでも最近英語の案件が多くて…なんで僕に言うんだろうと思うんですけど(苦笑)。そのへんの垣根がすごく低くなっているということは、肌で感じますね。そういう意味では中央官庁も各地の自治体も外向けの発信というのは大事ですね。
山口 これからは外国人のお客様を自治体に呼ぶということも必要になってきますので、ますます「外向け」の発信が必要になってくるでしょうね。
東北の震災のときに、日本にいる外国の方や海外に向けて首相官邸から英語のFacebookページで発信を開始したのがキッカケとなって官庁でのFacebookの利活用が進んだと伺っています。
田村 これ、首相が変わられってもずっと「首相官邸」として発信されてるんですね。
山口 そうですね。アメリカのホワイトハウスも同じように大統領が代わってもホワイトハウスとして発信されています。企業の運営責任者が変わってもその企業のFacebookページがそのまま発信を続けるのと同じ感覚です。
田村 なるほどー。
携帯が通じない非常時にこそ便利なFacebook
山口 災害で言うと、日本で東日本大震災のあとFacebookに追加された安否確認機能を、自治体の皆様の住民サービス拡充に活用することをご検討頂いています。
田村 それこそ僕の地元の関西では「南海大地震」が起こるってずっと言われます。東北の地震の直後はみんなアンテナの感度が高くて注意してたんですよね。でも時 間が経過するとちょっとずつちょっとずつみんなの意識から薄くなっていくということがあったりするじゃないですか。なので今回、改めてこういうのも伝えて おこうかなぁと思います。
山口 日本では幸いにもいままで起動する機会はありませんでしたが、先日ネパールの大きな地震の際などでは早速使われて、数百万の人の安否が確認され、数千万の人が知り合いの方の安否について通知されました。
田村 絶対必要ですよねこれ。
山口 東北のときはみんなケータイで通話ができなくなってしまって、ネットだけが残ったっていう状態でしたよね。
田村 あのときまだ僕は京都に住んでたんです。京都でテレビのニュースを見ながらFacebookやTwitterで情報を発信していると、東北の現地の方や東京の方からとても喜んでもらえたということがありました。いや、ネットってすごいと改めて思いましたね、その時。
山口 いろいろなところから発信される情報を、ひとつの画面で見られるというのも強みかもしれませんね。
田村 でも、震災当時は確か日本でのFacebookユーザーは300万人〜500万人ぐらいだったと思うんです。今は2400万人を超えているという。さらに 効果的に活用できそうですね。もちろん、起こってほしいお話ではないですが、万一の場合の活用度・貢献度というのはあの頃よりも大きいでしょうね。
フィルタを介さず情報を直接民衆に伝える手段
田村 さて、そろそろお時間になってまいりました。前にインタビューしたお二人もこの質問をするととても困っておられたのですが、それでもお伺いさせて頂きます!
山口様が自治体様・中央官庁様をご担当されているというお立場から、ユーザーさんあるいは発信する立場の方、はたまた世間のみなさんに、発信したいメッセージを頂きたく!
山口 はい。Facebookの特性は、写真や動画など様々な素材を駆使して届けたい人に届けたい情報を迅速に届けることができることです。自治体や中央政府の皆様において、情報をフィルターにかけず、クリアかつ間違いなく個人のふところへ直接伝えるという手段としては大変有効だと考えています。勿論、相互コミュニケーションの場 としても非常に有効です。
田村 いや、おっしゃるとおりです。
山口 ただ一方で、自治体の運営ご担当者としては否定的なコメントや炎上という事態はなんとか避けたいという思いもあろうかと思います。否定的なコメントや炎上で、慌ててFacebookページを閉鎖するのもやりがちですね。
田村 やりがちです。ほんとに。はい。
山口 そこで改めて、アカウントの運用ポリシーなどをそれぞれのページで準備したり、Facebookの規約をご理解頂いて適切に報告頂いたりといった形で運用して頂ければ良いと思います。
田村 ですね。きちんと決めておけば実際に運用される担当者の方も安心でしょうし。
山口 あと是非検討いただきたいのは広告の活用ですね。地域経済の活性化、土地の魅力の情報発信、観光客誘致等、様々な経済活動のために使っていただくというのも、おすすめしていきたいです。本当に小さな金額からテストしていただくことができますので、うまく使って頂ければ嬉しいです。
最後、やはり住民のひとの手元にあるケータイに、直接飛び込んでいけるというのは強いと思ってます。そのためにもモバイルファーストといいますか、携帯画面で違和感ないように魅了的なコンテンツを作ることも重要です。
双方向メディアの特性を活かすのも必要ですね。また、敢えてオフショットやつっこまれやすい画像を掲載したりしてエンゲージを増やすのも良いアイデアです。
田村 企業様のコンサルの時にも、通常お客様が見えないようなところを見せると喜ばれますよ、とお伝えしているんです。そういう視点で自治体さんや官公庁もお取 り組み頂いてもいいかもしれませんね。たとえばイベントをみんなで準備しているところを写真に撮ってアップするとか。
山口 はい。官の側からうまくユーザーの間に入り込んでいってほしいですね。
まとめ
営利団体ではない「自治体」や「官公庁」であっても、観光集客による地元への貢献や住民への情報公開は必要です。また、災害時の情報公開などはやはり自治体が主となり進めていくべきでしょう。
しかし、現状ではまだまだ公的機関でのFacebook活用は発展途上であると感じています。たまたま庁舎内に詳しい方がいらっしゃり、かつその自治体や公的機関からFacebookの運用にGoサインが出るまでは実際に取り組むのは難しいのでしょう。
ただ、今回山口様のお話しを聞き「いんや、やっぱりまずは『手を付ける』ところからだなー。」と感じました。官公庁などとのやりとりの中で、成果を感じられてることがヒシヒシと感じられましたので。
まだFacebookページを開設されていない自治体さまや、以前にFacebookページを立ち上げそのまま放置気味になっている自治体さんなど、十分にFacebookを活かせていないとお感じのご担当者様。いちど本気で取り組んでみませんか。
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山口 しっかし田村さん、よー日焼けしたはりますよね。
田村 こないだ高校野球を観にいったんですよ。半ズボンで行ったらもう全身ヤケドでえらい目にあいました…しかし、Facebookさん、関西人比率多くないですか?
山口 たまたまでしょう!田村さんはどちらなんですか?
田村 京都です。いや、こっちに来て京都って言うとなんか「お高くとまってるんじゃないか」とか「ホンネを言わないんじゃないか」とか言われるんですよ。実際は低く止まってて本音言いまくりなんですけど…
山口 都を東京にとられたとか思ってそう!
田村 いやいや、それはもう100年以上も前の…
山口 思ってますよねっ!
田村 もう!でも小学校のときに地元の歴史を授業でやるじゃないですか。そのときは「え、ほんまは京都が首都やったんちゃうん!」みたいなのはありました!はい!
山口琢也(やまぐち・たくや)フェイスブック執行役員公共政策部長
大阪府生まれ。大阪外国語大学卒業後ソニー株式会社、ソニーヨーロッパGmbHにて人事・採用を担当。2003年より内閣官房情報通信技術(IT)担当室にてIT国家戦略立案に携わり、2005年より日本マイクロソフト、シスコシステムズ、グーグルにて公共政策・政府渉外部長を歴任。2015年3月より現職。
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