2020年4月21日に開催された、『コルク佐渡島氏と語る、これからのコミュニティの在り方 Communities that promote fans』のイベントをレポートします。
そもそもコミュニティは近年さまざまな場所で注目を浴びていましたが、今年はコロナの影響もありさらにコミュニティの重要性が増しています。そこで今回コミュニティ作りにかかわる方に、コミュニティの最前線と運用について話を聞くべく参加しました。
出席者は下記の3名。
杉山博一氏。オシロ株式会社代表取締役。OSIRO(オシロ)という、サブスク型ファンコミュニティのプラットフォームを開発・提供。()
佐渡島庸平氏。株式会社コルク代表取締役で、著名作家とエージェント契約を結び、作品編集、ファンコミュニティ形成・運営などを行っている。(https://corkagency.com/)
山口岳氏。.HYAKKEIの編集長であり、登山や自然志向のライフスタイルメディア「.HYAKKEI」の、会員限定コミュニティ「CREWS by .HYAKKEI」を運営する。(https://hyakkei.me/)
さらにファシリテーターとして山田智恵氏が参加。オシロ株式会社のCOOであり、自身もミーニング・ノートという独自で開発したノート・メソッドのコミュニティを主催している。
野口陽介氏。弊社オプトに所属し本イベントの主催者の一人である。
まず「1.変化するコミュニティについて」OSIRO代表の杉山氏からのお話がありました。
コンテンツの売り方を変える、コミュニティファースト
杉山:簡単な自己紹介させていただきますが、アーティスト活動やデザイナーとしてフリーランスで働いた後、ある日「日本を芸術文化大国にする」という天命をうけ起業しました。その際「アーティストが活動を続けていくためのお金とエールをつくる仕組み」を作るためにOSIROを立ち上げました。
ファンコミュニティが作れるサービスであるOSIROは、三つの特長があります。
「オウンド×サブスク×コミュニティ」というもので、この三つのかけあわせでファン同士は仲良くなっていきます。
そんなOSIROをつくるのは「コミュニティファースト」という考え方です。
佐渡島:大切な考えですよね。
杉山:これまでコンテンツホルダーはメディア(SNS)を使って作品や商品ができた時にプッシュ、販売していくという流れでした。しかしこれからはコミュニティを第一に考えます。それも無料でたくさんの人に入ってもらうのではなく、有料で熱量の高いファンを応援団としてコミュニティ化していきます。
これまでの作品や商品は出来上がってから楽しめるものでしたが、一緒に作る参加型にすることによって、ファンは満足度が上がり、さらに口コミをしてマイクロインフルエンサーになっていきます。
コミュニティファーストという考え方は、コミュニティECという仕組みを形作っており、本来届けたい作品や商品がより多くの人に届くようになるんです。
コミュニティは5つに分類できる
山田:登壇者の皆さんも企業の中で事業としてコミュニティを始められるという方も多いと思いますが、その事業のマーケティングの中でコミュニティをどういう位置づけで考えられているのかをお聞きします。
山口:コミュニティはだいたい5つに分類できますが、中でもカスタマーサクセスはビジネスと相性がいいと考えています。
まず一つ目が、サービスを使いこなせないとなかなかうまくいかないようなサービスのコミュニティ。
とか楽天大学とか、あとはLinuxのコミュニティなど。カスタマーサクセスをあげるためのコミュニティです。
これをやるとサポートセンターのコストが下がったり、ロイヤリティが上がったり、継続率が上がったり、アイデアやニーズを吸い上げられますよね。
二つ目は、佐渡島さんがやってらっしゃるようなファンコミュニティ。
アーティストや特定のブランドに対して愛着がある人ったちが集まってきて、その人たちの世界をつなぎ、世界観を楽しみ、そして世界観から出てきた商品を買ってビジネスがまわり出すものです。
三つ目は僕がやっているような趣味とか概念的なものを中心に人が集まってくるコミュニティ。この場合は企業がはじめるというよりも、すでにそういう趣味の人たちが集まっているので、そこに企業は「うちも乗っかりましょうか」となって始まったりします。昔のメディアでいう、車メディアやバイク雑誌に近いですね。
他には、地域ごとにうまれていくコミュニティ、NPOのような社会課題を解決しようとしてうまれるコミュニティなどがあります。
山口:そしてコミュニティの役割によっても企業の位置づけや形は違っていきます。1対nとかn対nとか1対n対nですね。
FacebookとかInstagramとかTwitterをコミュニティにいれたほうがよかったり、クローズドな関係性をまず作っていくことが必要だったり。何だったらまずOSIROを導入することが必要だったり。
前述した五つのコミュニティのどれなのか、自身の持っている商品によってコミュニティのあるべき姿とか使うツールというのは変わってくるんじゃないでしょうか。
山田:それでいうと、OSIROは1対n対nの活性化を理想としているんですよね。
杉山:そうですね。OSIROで定義するコミュニティとは1対n対nとしています。
佐渡島:でも、1対n対nのコミュニケーションをしていても、それが社会に対して影響力を持つようになるのは結構難しいことなんですよ。日常のコミュニケーションを含めてどのように設計できるかっていうのはすごく重要ですよね。
杉山:そうなんですよね。そこでOSIROはコミュニティがただ単に身内だけで盛り上がるものではなく、コミュニティとして健全に成長するために、スパイラルを図のように定義しています。
まずはコミュニティに「はいる」、次にコミュニティに「なじむ」。そしてコミュニティになじんだと思ったら、メンバー同士で仲良くなり参加度が高まって「はずむ」。その後メンバーから「にじみでる」というものです。
「にじみでる」というのはコミュニティ内の出来事や活動、作品や商品を外部に発信すること。
OSIROだとコミュニティブログがあるので、メンバーがこのコミュニティの中で描いた記事を外部公開できるというのも発信することのひとつです。
コミュニティの中で物を売ったりイベントができたりするだけではなく、OSIROはコミュニティの外にも購入してもらう機能があります。そうやって自然ににじみ出ていくことが増えると、社会に対するインパクトが増えていきます。
すると今度は新しいメンバーが増えていき、最初に戻るスパイラルになるんです。
山田:これができているかということが、そのコミュニティが成功しているのかということの指標にもなる、ということですね。
コミュニティは、既存事業で100倍の売上を生み出す?
杉山:実はまさにコミュニティファーストの考え方で、本丸の既存事業で100倍の売上を作った事例があります。
米国のシェアオフィスの会社が、サブスク(継続課金)でオンラインコミュニティをやっているのですが、オンラインコミュニティの会員が数万人にまで増えたときに、利用者のひとりがコミュニティで「次の仕事のプレゼンをどうしたらいいですかね?」と会員メンバーたちに相談しはじめたんです。すると会員たちはみんなで「ここを直したらいんじゃないか」とアドバイスしあう共創が起こっていたんです。そしてこれをみたシェアオフィスの会社は、この一連の流れを活性化するようにしました。
すると、会員たちの仕事がうまくいき、会員たちはオフィスを必要とするようになり、シェアオフィスの契約が増えました。結果、コミュニティ事業が本丸であるシェアオフィス事業の需要ニーズを作り出すことが成功し、会員は数万人まで到達。コミュニティ事業の売上に対して、本丸のシェアオフィス事業は100倍の売上数字をたたき出していたんです。
この事例からコミュニティは大事だということがお分かりいただけたと思いますが、OSIROはシステムだけではなくノウハウを同時に提供、コミュニティ化のみならずコミュニティを活性化して図の中央の「共創の場」をつくることを狙っています。
なぜなら共創の場をつくると、PR効果、既存事業売上UP、コミュニティECのような副次的な効果がうまれるからです。大切なのは、コミュニティはその単体だけで事業として考えるのではなく、共創の場を作った先の副次効果が健全な事業成長を促すんですね。
コミュニティの魅力って、生産的じゃないこと
佐渡島:コミュニティを運営していて最近思うことがあります。
人というのは「家に引きこもってパソコンで経済活動をして、一生誰ともあわずに過ごしていたら幸せか?」っていうとそうとはいいきれない。子育てに生産性は関係ないように、人間の幸せと生産性は関係ないんですよ。
今の世の中、家族と会社以外の人の集まる場所となると、ジムや英会話教室など消費者として所属する形になってしまう。人間的にふるまえるところがなくなってきている。リモートで仕事をしたりするとタスクと役割ばかりになって、純粋に人と仲良くするのが難しくなる。だからコミュニティの良いところにはそういう「純粋に人と仲良くなっていく過程が楽しい」ってことがありますね。
杉山:それでいうと、コミュニティがオープンかクローズな状態かってことも重要ですね。
会社やSNSのようなオープンなコミュニティはありますが、オープンな場所で自分らしくふるまえるのはなかなか難しい。
今の世の中のニーズとして「自分らしくあれる場所」というものがあります。コミュニティはクローズであればあるほど自分らしくいられるので、クローズドなコミュニティには魅力があります。
山田:心理的安全性があがるということですね。
山口:僕はオプトという広告代理店に所属しているんですが、自分の届けているサービスの成果が「笑顔」として直接返ってくるという職業が少なくなって来ていると思っています。パン屋さんとかレストランとか子どもが分かるような職業に多く見られるようなものです。
コミュニティはそういう場に立ち会えて、しかも単純にありがとうで終わるだけでなく人間関係も作っていくので、僕はすごくうれしいですね。
佐渡島:仕事以外の意味のない会話をするのって難しいんですよね。
例えば僕と杉山さんは仕事での関係性があるので、OSIROについて現状や今後どうしていくべきかを毎週定例会議をして話しているんです。でもそれだけだとなかなかお互いについて深く知っていくのは難しかったり、「意味のない会話」が生まれなくて、友人の関係の時のほうがよかったなと思ったりする。
学校のクラスとかって自然と仲良くなっていくじゃないですか、大人になると結構そういう場がなくて、損得なしに付き合う関係を作るのは難しいですよね。
コミュニティで共創するコツは雑談すること
山田:質問をご紹介します。「社内の会議がZoomになってから無駄な会話をしづらくなりました。オンラインコミュニティで無駄な会話をする工夫があったら教えて下さい」
佐渡島:これ結構重要で。イベントを活性化させる知見を増やさないといけないと思っているんですよね。
例えばいまこのイベントを視聴しているみなさん、「こんにちは」を書き込んでください。
山田:コメント欄に「こんにちは」が書かれ始めましたね。
佐渡島:こんなふうにオンラインでは「こんにちは」という一言を発している場合と発していない場合だと、声の出しやすさっていうのが全然違うんですよね。やっぱりいきなりしっかりしたことを言おうとすると大変なんです。
だから「こんにちは」といった後、今度は「今日のお昼に食べたものを教えて下さい」って言うんです。「僕はそうめん食べてます」みたいなことをいっぱいやっていくことが大切。
山口:どんどん書き込まれていますね。
山田:今度は弁当とかとんかつ、たけのこご飯とか肉まん等がめっちゃ書かれています。
佐渡島:まさにこういう事の積み重ねが大切だと思っています。今日は共創がテーマですが、共創は何度もコミュニケーションをしていった結果なんですよね。コミュニティに集まる人はスキルも方向性も違うから、コミュニケーション量が多くないといけない。かなりどうでもよいことをしゃべれるようにならないといけない。
僕は雑談よりも正解をいうことのほうが簡単だと思っています。つい人は集まると、正解をいってあってるあってないのコミュニケーションばかりとろうとしますからね。
だからコルクラボだと全員で合宿行ったときに、椅子取りゲームとかこういう小さいコミュニケーション、例えば子どもっぽい遊びをしたりするんです。
山口:うちもやります。雪合戦とかターザンロープとかすると場がめちゃめちゃ温まります。
山田:無駄な会話は共創の第一歩ってことなんですね。
イベントに参加して
ここでご紹介した以外にも、「コミュニティをブーストさせるコツ」や「コミュニティで何か作る際のコツ」など複数のTipsや事例の話がでてきました。
しかしどの登壇者も人と人とのコミュニケーションをどれだけ増やせるかを重視しており、全てをうまくするキラーアイテムのようなものはなく、小さなコミュニケーションや試行錯誤を繰り返すことが「コミュニティ」を運営するコツのように思います。
今はオンラインコミュニティのノウハウが注目されていますが、今後リモートワークなどが一般化すると、逆にこのノウハウが会社や友達との私的なコミュニティでも有効なやり方になっていきそうです。
もし今このタイミングで働き方、ライフスタイルを模索するのなら、コミュニティにはいって運営してみるのも一つの方法なのかもしれません。
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