みなさまこんにちは、PR TIMES PRプランナーの村上と申します。
本連載では、「パブリックファースト」をテーマに、PR TIMESの各プランナーがデータや事例とともにPR・コミュニケーションについてご紹介しています。
前回は現代の情報流通構造について分析し、「360°でのPR発想」の重要性について取り上げました。そこで紹介されたように、Paid・Earned・Owned・Sharedのメディア4種を効果的に組み合わせることが求められています。
その一方で、従来の広告やメディア、PRの枠にとらわれずに、自由な施策で生活者の意識・行動変容を生もうとする動きも見られるようになっています。連載3回目となる今回は、そんな施策に関してお話させていただきます。
広がるアクティベーション施策
技術の進歩と共に情報流通構造に変化が起こり、いわゆる「普通の広告」は消費者にシビアに捉えられるようになりました。
また、サブスクリプションモデルの普及などに代表される形で企業と顧客が長期的に関わり合うようになると、ただ商品の魅力を伝えるだけでなく、ブランドへの愛着を持ってもらう・ブランドに共感してもらうことが改めて重要視されるようになっています。
そんな中、注目を集めるようになったのが、「ブランドアクティベーション」と呼ばれる一連の施策です。
『(ブランド)アクティベーションとは』
広告以外の様々な形で生活者にブランド/その価値を体験させて、意識と行動の変容を働きかけること。「様々な形」というのを更に分解すると、コンテンツマーケティングやインフルエンサー施策、プロモーション施策など、なじみ深い言葉で表現できるかと思いますが、具体的にどんな施策をするであれ、意識変容・行動変容によってブランドの売上やロイヤリティなど実際に効果を生むことが求められます。
厳密に定義できるものではないですし、現在の日本においてはPR/マーケティング/販促など多様な領域が当てはまるのがアクティベーションですが、それぞれの領域が密接に繋がり混ざり合っている状況を踏まえると、どこを専門にしていようと知るべき事項ではないでしょうか。
今回はkakeruでの連載ということで、SNSを絡めたアクティベーション施策を、実際の事例をご紹介しながら考えていきたいと思います。
UGCが生まれるハードルを下げる
SNSにおいて、意識と行動の変容をどう計測するかと考えたときに、UGCに目を付けるケースも多いでしょう。kakeru読者の方はご存じかと思いますが、UGCとはUser Generated Contentsの略で、ユーザーが自発的に投稿したコンテンツのことを指します。
あるユーザーがUGCを投稿するということは、それだけブランド・プロダクトに対して好意・愛着を持ってくれているということが読み取れますし、好意が根底にあるそのUGCをタイムラインで見た人も、自然な形でブランド・プロダクトに対してポジティブなイメージを抱くことに繋がります(意識の変容)。それがSNS上のあちらこちらで生まれ、連鎖することで、いわゆる話題化が起こるというわけです(行動の変容)。
ということで、SNSを絡めたアクティベーション施策に関しては、いかにUGCが生まれるハードルを下げるかが大切になると言えるかと思います。
事例1『ロッテ 爽ハッピースプーン』
幸福学研究者の第一人者も納得の爽ハッピープロダクトがついに登場!お絵かきを楽しみながらアイスを食べられる「爽ハッピースプーン」をロッテ爽が開発!
こちらはロッテのアイス「爽」が行った施策。『爽』をさらにハッピーに楽しんで欲しいという思いを元に、アイスに絵を描けるスプーンを開発しました。
プロダクトムービーにお絵描きシーンをまぎれこませ、 土壌を整えた上でスーパーで配布を実施。その後も芸人などのインフルエンサーにSNSでお絵描き作品を投稿してもらうなど結果的にSNSの投稿リーチが785万人以上に、売上200%超を記録しています。
こちらの施策で注目すべき点として、下記の3点が挙げられると思います。
■ポイント1
まず、カップアイスにスプーンで模様をつけるという行為は、誰もがとは言えないまでも昔やった経験がある人も多かったのではないでしょうか。突拍子もない施策という訳ではなく、すぐに「なるほどね」とイメージできる内容だったことで、参加するハードルも下がったのではないでしょうか。
■ポイント2
2点目として、自分の個性を発揮した投稿ができるという点が挙げられます。SNSに投稿する1つの理由として、承認欲求を満たすことがあるとは思います。そしてその際には自分の投稿にオリジナリティを盛り込ませたいもの。アイスとスプーンという投稿のための材料は共通しつつも、「アイスという画用紙に好きに絵を描ける」という施策の自由度の高さは、オリジナリティを出すには打ってつけの内容だったのではないでしょうか。
■ポイント3
3点目として、2点目と少し矛盾するところもありますが、ある程度フォーマットが決まっている点、言い換えればお手本を元にマネしやすい点もポイントかと思います。SNSでは驚くような技術で何かを作り上げた投稿を目にすることもありますが、それを見ていて「自分もやってみよう」となる人はごく少数であり、「へぇー、すごいなー、」と感じるだけ(見るだけ)で終わってしまうケースがほとんどではないでしょうか。
このケースでは使う道具やフォーマットがほぼ全て決まっているため、「どうすればいいの?」となることは少なかったのではないでしょうか。また道具やフォーマットが一緒ということは、SNS上に同キャンペーンの投稿が一定数あればそれをお手本にした投稿もやりやすく、参加障壁を下げることができていたのだと思います。
消費者を創作者となり、SNS自走を実現した施策でした。
事例2『PEDIGREE SelfieSTIX』
次は犬好きのインサイトを的確に捉えた施策です。愛犬と一緒に自撮りをしたいという思いは、犬を飼う人の多くが持っているものと思いますが、犬の方は中々カメラレンズをおとなしく見てくれず、いい写真が撮れないという悩みが犬好きの間ではありました。
そこで、「犬が好む歯磨きガムを挟める、スマートフォンクリップ」をノベルティとして開発。自撮りを使用とカメラを向けると、犬は歯磨きガムをじっと見つめるので、結果としてカメラ目線の写真が撮れるという仕組みです。
さらに第二段階として、犬の顔に警察官・飛行士など様々なキャラクターをモチーフにしたフィルターを被せることのできる写真撮影用アプリを開発。カメラを見つめてくれた犬を更にかわいく撮影できる仕組みまで完成させました。
ノベルティの力で犬の撮影にかかる労力を軽減し、アプリで写真の質を向上させる。ここまでお膳立てされたなら、飼い主も写真を撮ってSNSに上げたくなるものでしょう。前項とは違った形で、SNSへの投稿のハードルを下げてあげた企画でした。また、結果的に歯磨きガムの売上も、前年比24%増を達成したそうです。
スマホとリアルを横断する
SNSでのコミュニケーションが広まっても、リアルでの体験の価値が失われたわけではありません。むしろ、SNSが流行りすぎた揺り戻しか、近年コミュニケーション施策ではリアルの価値も高まっているのではないかと思います。
そんな中で、リアルでもSNSの中でも楽しめる体験を提供する施策もポイントの1つになるでしょう。
事例1『日清 Dream Machine』
「その場でSNSに投稿すると○○」というような施策はしばしば見受けられますが、本施策は自動販売機と自分自身が移った自撮りを、指定されたハッシュタグとともにインスタにアップロードすると、その自動販売機からカップヌードルが貰えるというキャンペーンになります。
ただ製品のために投稿するだけでなく、「こんな面白い自動販売機があった」という事実を更にSNSで広めたくなるような施策になっています。 施策そのものの面白さに注意が向きすぎて、伝えたいことがおざなりになっては本末転倒ですが、面白い・珍しい施策というのは、それだけでUGCを生み出すパワーを持つともいえるでしょう。
事例2『大塚製薬 禁スマホメイト』
カロリーメイトが 勉強に集中したい受験生の「禁スマホ」を応援!?カロリーメイト勉強応援コンテンツ 「禁スマホメイト」12月3日(月)より開始
前述の例とは逆に、リアルの施策にシェアしたくなる仕掛けを作っておくことも効果的です。
カロリーメイトが勉強に集中したい受験生を応援するために行った本施策、Webサイトへアクセスしたのち、スマホを伏せて勉強を始めると、再度サイトを開くまでの時間を計測してくれます。
我慢できなくなってスマホを見たタイミングで計測が終了し、「禁スマホ」の時間や日時とともに人気イラストレーターのイラストを表示。受験生を応援するという流れをなっています。
SNSを見ずに我慢して勉強して、「もう勉強は無理」となった時に表示される画像、つい流れでシェアしてしまう様子がイメージできるのではないでしょうか。
SNSでのキャンペーンの要素がありつつもスマホを触らないことが参加の条件という、逆転の発想のキャンペーンです。
ちなみに、こちらの測定は専用アプリではなく、元々スマホに備わっているジャイロセンサーを活用しています。スマホで特異な施策をやろうとするとアプリを作る必要性があるように思いますが、従来の機能を応用するだけで、こうした面白い施策ができるというのも注目ですね。
表現の場は投稿だけじゃない
SNS上での施策と聞くと、投稿してそれを広告で回して…というのが最初に思いつきますが、投稿だけが表現を工夫できる場ではありません。
事例1『Jana Deepest Instagram Profile』
こちらはインスタグラムのプロフィールを工夫した例。天然ミネラルウォーターのキャンペーンの一環で、「史上最高に深い」をコンセプトにしたしました。
プロフィール画面のフィードが海の深さを表していて、画面をスクロールする毎に水深がどんどん深くなっていく仕組みになっています。
キャンペーンのアカウントというと、キャンペーンが近づくタイミングで開設→数回投稿して終わり、なんてケースも多いですが、このケースは単純な投稿だけでは終わらずに、ミネラルウォーターの独特な世界感を構築することに成功しています。
ちなみに数か月後には、逆にスマホを逆さまにしてスクロールすると、どんどん宇宙へ上がっていくように見えるというアカウントも開設されました。
事例2『Fondation de France bee_nfluencer』
次の例は、言ってしまえば単純なインフルエンサー施策なのですが、投稿者自体に大きな工夫がなされています。フランスの慈善ネットワークが、ミツバチの保護活動のために開設したInstagramアカウントでは、なんとハチをインフルエンサーに見立てているのです。
世界的に「バーチャルインフルエンサー」が徐々に注目されるようになっていますが、このハチもその一種と言えるでしょう。キャンペーンのロゴがアイコンの、普通のアカウントからの投稿より注目されることは容易に想像できますね。また、自動販売機の例でも述べたように、こうした施策はその面白い・珍しい施策がUGCを生むトリガーになり売ります。
おわりに
このようにSNSで実現できるコミュニケーションは、SNSの自由さも相まって非常に広範です。その特性上、SNSで一風変わった施策を行うことは、施策自体の面白さが評価されて拡散する可能性も高いため、オフラインで完結する施策以上に考えがいがあるといえるのではないでしょうか。
宣伝担当・マーケ担当・広報担当、どんな人でも企業のSNSに触れる可能性がある今こそ、こうした施策に目を向けつつ、面白い手を模索し続けることが必要になりそうです。
PR TIMESでは、ここまで紹介してきたような広告・宣伝事例を日々紹介するメディア、「AdGang」を運営しています。ぜひこちらもご覧いただき、日々のリサーチに役立ててください。
次回連載では、近年目にする機会が多く、アクティベーション施策の中の1つともいえる「ポップアップストア」に関して、リアルとデジタルを横断した実例を交えながらご紹介させていただきます。ご期待ください。