インターネットが当たり前になった今、SNSを通じさまざまなクリエイターが生み出す作品に出会う機会が増えました。
投稿された作品に出くわしては、笑ったり、感動したり、共感したり、癒されたり……。
人々の感情を揺さぶれる作品を生み出すクリエイターの才能に脱帽すると同時に、このように感じることも多くなりました。
“あの発想力はどこからくるんだろう”
“何にインスピレーションを受けてるんだろう”
“原動力はなんだろう”
作品が生まれるまでの、発想力や企画力が長けているのは間違いありません。では、それらをものづくりへ傾けさせる、原動力は何か。誰でも表現できる時代、活躍するクリエイターには、他の人と異なる何があるのか──。
今回、クリエイターが作品を生み出すまでの過程やアイデアの源泉を覗くために、Pinterestを活用しその“頭のなか”を掘り下げていく「INSIDE HEAD(インサイド ヘッド)」と題した連載をスタートします。聞き手は、ライターのあかしゆか()さんにお願いしました。
第1回目にお話を伺ったのは、クリエイターの白水桃花(しらみず・ももか)さん。
現在はフリーランスとして、サプリメントブランドのLisseやTHE RYOKAN TOKYO等のInstagramのディレクションや名刺や紙面のデザイン、アーティストや商品写真の撮影など幅広く活動。その傍ら、6:00 a.m. ( ロクジエーエム ) というブランドを立ち上げ、オリジナルグッズやハンドメイドアクセサリーの制作・販売といった自主制作も行われています。
その世界観で人々を魅了する桃花さんに、クリエイターとしての“頭のなか”を、たっぷり伺いました。
<プロフィール>
白水桃花(しらみず・ももか)。1997年東京生まれ、茨城育ち。中3で一眼レフを手に入れて写真を撮り始める。高校生のときに始めたiPhoneケースの販売をきっかけにデザインに興味を持ち、美大に進学。20歳の誕生日には、はじめての個展を開催。その後大学を中退し、現在はフリーで名刺や紙面のデザイン、アーティスト写真や商品の撮影、instagramのディレクションなど幅広く活動中。その傍らでオリジナルグッズやハンドメイドアクセサリーの制作・販売といった自主制作も行っている。
ものづくりを始めたきっかけは、「家でもできるアルバイト」を探したことだった
インタビュー・執筆を担当した、ライターのあかしゆかさん
あかし:はじめまして。今日はよろしくお願いします。
桃花:よろしくお願いします。
あかし:お会いできてうれしいです。桃花さんが撮影を担当されているスキンケアブランドの「kinema」、ずっと愛用してるんですよ。写真が可愛くって、Instagramもついつい見てしまいます……。
桃花:わあ、ありがとうございます(笑)。うれしいです。
あかし:桃花さんのつくり出す世界観は、なんというか、清潔感の中に儚さと可憐さが同居しているような、不思議な魅力があるなと思っています。今日はそんな桃花さんの頭の中を覗かせていただきたいな、と。
桃花:緊張します……。よろしくお願いします!
あかし:ではさっそくですが、桃花さんが「ものづくり」を始められたきっかけを教えてください。
桃花:小さい頃からずっと、手を動かして何かをつくることが好きだったんです。写真を撮ったり、お菓子をつくったり、お裁縫をしたり、ノートを綺麗に書いたり。原点はそこだと思います。 直接的なきっかけは、高校生の時にLINEスタンプやiPhoneケースをつくって売り始めたことですね。
あかし:高校生! 早いですね。どうしてつくろうと思ったんですか?
桃花:最初はバイト的な感覚でした。スーパーのレジやファミレスのキッチン、ウェイトレスと色々やったんですが、全部続かなくて…。「家で稼げる方法はないかな」と思ってはじめたのが、LINEスタンプやiPhoneケースをつくって売ることだったんです。
今も昔もずっと変わらない、自分が好きなものをつくること
あかし:最初は「家でもできるアルバイト」として、ものづくりを始められたんですね。どうして最初に売ろうと思ったものがLINEスタンプやiPhoneケースだったんでしょうか?
桃花:当時、iPhoneケースもLINEスタンプも、あんまり自分が「ほしい」と思えるものがなかったんです。ないならつくっちゃえばいいのかと思って検索したら、意外に簡単そうだったので。
あかし:すると、届けたい人を考えて……というよりは、自分自身がほしいものをつくっていたと?
桃花:そうですね。その時から今までずっと、私がものづくりをする時は、「自分がほしいものをつくろう」という思いが最初にある気がします。iPhoneケースも、今つくっているアクセサリーとかもそうですね。逆に、自分が心から「ほしい」と思えるものじゃないと、販売しないようにしています。
「肩書き」がなくても応援してくれる人はいる。武蔵美での大学生活と、退学の理由
あかし:桃花さんは武蔵野美術大学(以下:武蔵美)に入学されて途中で退学されているとのことですが、その経緯を教えてください。
桃花:「武蔵美に行きたい」と気持ちが固まったのは、高3の夏でした。武蔵美自体は知っていたんですが、軽い気持ちで入れないことはわかっていたので、勝手に選択肢から除外していました。
あかし:名門校ですもんね。
桃花:でも調べてみたら、私が行きたかった学科が、デッサンができなくても数学や小論文だけで受験できる学科だったんです。デッサンは一定期間経験が必要ですが勉強であればできるかもしれない。1%でも可能性があるのならチャレンジしてみようと決意して、そこから勉強をはじめました。
あかし:大学に入学してみて、どうでしたか?
桃花:うーん…。正直、楽しさもある反面、大変さもありました。「一人暮らし」と「大学生活」が同時に始まったので、環境の変化に追いつかず、心身ともにきつかったんです。大学1年生は、ひたすらに課題をこなしていて、とにかく必死に生きていたなと。
たぶん私のTwitterで「課題」って検索すると、その頃は「課題がやばい課題がやばい」しかつぶやいてないと思います(笑)。
ハイ課題?ハイハイわたしはできるなんでもできる終わる終わる大丈夫課題課題課題???!!!!!??
? 白水 桃花 ()
あかし:今回、取材をさせていただくに当たって、「過去」「現在」「未来」のイメージをPinterestのボードをつくっていただいたのですが、「過去」にあるこの本の写真は、もしかして武蔵美の頃ですか?
桃花:そうです。これはたしか、武蔵美の図書館でデザインの本を借りたときのものだったと思います。でも私、実用書を読むのが苦手で、デザインのロジックや考え方を書いている本を読んでもあんまり興味が持てず、これ以来読まなくなりましたね……。今は、作品集や画集のようなインスピレーションをもらえそうなものを目にすることが多いです。
あかし:ただ、その1年後くらい、20歳で大学を中退されたとnoteにも書かれていますよね。大学をやめようかなと思い始めたのはいつ頃からだったんですか?
桃花:正直、入学したときからずっと、漠然と「自分が卒業する姿」をイメージできていなかったのは土台にあるかも知れません。決定的だったのは、2年生の夏。20歳の誕生日にずっと夢だった個展を開催して、その会期中に急遽お仕事でヨーロッパに行ったんです。その後から学校を休みがちになってしまって、燃え尽きたみたいな感覚でした。休みすぎて、このままだと休学するか、単位足りなくなって辞めるか、というところまでいって……。
あかし:なんと。
桃花:いろいろ悩んだんですけど、たぶん休学しても戻らないだろうなと思って。当時、ちょうど仕事も増え始め、そちらが楽しくなってきたのもあったので、思い切って辞めました。
あかし:辞めた一番の決め手は何だったんでしょうか。
桃花:「武蔵美」という肩書きがなくても応援してくれる人たちが周りにいるということに気づけたことですね。武蔵美にいると、それだけで「すごいよね」みたいに肩書きを見られることが多かったんです。
でも、私のことをInstagramやTwitterで好きって言ってくれる人は、別に武蔵美にいるから好きって言ってくれるわけじゃなかった。肩書きがなくなってもきっと大丈夫だろうと、自信になりましたね。
あかし:実際に辞めてみてどうでしたか?
桃花:辞めたことに関しては全然後悔していないです。でも、大学に入ったおかげで、自分が苦手なこと、嫌なことに気づけたので、一度は入学してよかったと思いますね。
仕事をする上で大事にしたい“余白”
あかし:現在は、どのようなお仕事をされていらっしゃるんですか?
桃花:今は、企業のInstagramアカウントのディレクションが一番多いです。撮影から担当するところもあれば、素材を組み合わせてデザインするところもあります。商材は、お茶や美顔器、旅館、サプリメント、アクセサリーなどなど…ですね。
あかし:かわいい……!
桃花:ありがとうございます。あとは、単発で名刺のデザインをしたり、個人の撮影をしたりすることもありますね。
あかし:でも、どのお仕事も「桃花さんらしさ」が感じられるものが多いですよね。お仕事は、どんな感じで相談されることが多いんでしょうか?
桃花:長くお付き合いしている企業さんは、細かなディレクションが入らず、自由度というか、私が考える余白を少し広めにとってお仕事させていただけるところが多いですね。
難しい問題なんですけど、「世界観が好きだから自由にやっていいよ」と言われたのに、実際にいいなと思うものを出すと「やっぱり違う」と言われることもたまにあるんですよ。
あかし:その線引きって難しいですよね……。
桃花:そうなんです。デザインを知っている人だと最初から明確な条件を提示できますが、詳しくない人だと、できあがったものを見てはじめて「違う」と気づけることもあると思います。
私はガチガチに要件を固められると苦労するタイプなので、その「最初のすりあわせ」をうまくできるかは、今の課題ですね。
ものづくりは、膨大なインプットの上に
あかし:桃花さんは、お仕事でもものづくりをしつつ、6:00 a.m. ( ロクジエーエム ) というブランドとして、アクセサリーなど自主制作もされています。お仕事、制作問わず、桃花さんがものづくりをするときって、どういった思考で、アイデアをつくり、かたちに落としているんでしょうか?
桃花:難しい質問ですね(笑)。うーん…けっこう直感でつくっているイメージだと思います。アクセサリー制作、デザイン、文章執筆、どれも下書きや見直しを一切やらず、「つくろう」という状態までイメージが整理できたら、あとは直感で完成まで進めます。
たとえばアクセサリーをつくる時、普通は「つくりたいもの」を最初にイメージして素材を集めていくと思うんですけど、私は「可愛いな」と思う素材をいっぱい集めて、出そろった状態を見て、直感で組み合わせていく、というプロセスを踏みます。
あかし:直感が鍛えられているのかもしれませんね。何か、直感を養うために意識していることはありますか?
桃花:インプット量が多いのかも?とはよく言われます。ただ、私はインプットを「意識」してやったことはなくって。普段から見てるTwitterやInstagram、Pinterestなど、別に「インプットしよう」と思って見てるわけじゃない。でもそれが結果的にインプットになってるってことですよね。
たとえば、このボードに入れた好きなアーティストのアートワークとかも、単にアーティストが好きで目にしたんですが、そのアートワークの美しさも好きで手に取っているというのもあります。
ほかにも、日々触れているお店の外観とか食べ物、パッケージもインプットの一部ですよね。電車の広告とかもそう。だから、生活してると全部がインプットになりませんか?(笑)。
あかし:たしかに……!
桃花:なので、自分から「インプットしにいこう」っていうのはあんまりなくって、自然に生きている中でいろいろと吸収して、それが自分のデザインにも知らず知らずのうちに反映されているのだと思いますね。
やりたいことはいっぱいある。課題は「余裕」づくり
あかし:では、おそらく普段インプットされていることの延長上だと思うのですが、これから先、桃花さんがやってみたいことは何でしょうか?
桃花:やりたいことはいっぱいあるんです。ボードにもいろいろ載せたんですけど、たとえば、陶芸や生け花や刺繍とかもやりたいなと最近は思っています。
あかし:ものづくりに関することは、幅広く関心があるんですね。表現の幅も広がりそうです。
桃花:色々試してみたいんです。ただ、なかなか時間が取れないのが最近の悩みですね。自由を求めてフリーランスになったのに、結局今は仕事の割合が多くて、やりたいことがやれてない。だから、チャレンジする「余裕」を確保するのが今年の目標ですね。
あかし:お仕事の内容的にはチャレンジしたい部分はありますか?
桃花:今はほぼ1人でやるような案件が多いので、いろんな人が関わるような、もう少し大きな案件にも関わってみたいです。
というのも、実は関わる人数が多くなるのに苦手意識があるんです。ただ、苦手だしできないからって同じような仕事ばかりをしていると、一生ここから成長できない。できることを増やしていきたいので、苦手なことにも飛び込んで行くことは必要だと思っています。
あかし:では、今年だけでなく、少し先を考えたときに「こうなりたい」といった姿はあるのでしょうか?
桃花:直近でやりたいことはたくさんあるんですが、5年とか10年先のことは正直全然わからないんです。やりたいことって、その時に仲が良い友達、たまたま見たテレビ……といったように「外」から呼び起こされるもので、自分の中から勝手に生まれるものじゃないと思っていて。
これから仲良くなった人の影響で新しいやりたいことができるかもしれないし、仕事の方向性も変わっていくかもしれない。だから、今の時点では何も想像できないですね。
どんな自分になるかがわからないその不確実性が楽しみだな、と思います!
取材後記
「目の前のやるべきこと」に追われる生活の中で、つい「インプットしなきゃ」「学ぶ時間を確保しなきゃ」などと私は思いがちです。
ですが、そういうことではないのかもしれないと、取材中に伺った桃花さんの「自然にインプットする姿勢」を通して思わざるを得ませんでした。
「わざわざインプットする」のではなく、自分の日々の生活の中で、いいなと思ったもの、興味を持ったものを素直に追いかけ、吸収していく──。
そのような「自然なインプット」はきっと、乾いた喉を潤す水のように、自分の身体の中に浸透していき、自分自身を構成していくのだと思います。その良質なインプットが、いいクリエーションを生み出す秘訣なのかもしれません。
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