#empty 企画に見る美術館とSNSのあり方 後編

2020 5.29

kakeruで「インスタジェニック」という言葉を初めて取り上げて早5年。

2015年から2019年にかけて国内月間アクティブアカウント数は約4倍に増加し、Instagramの成長とともに活躍の幅を広げるクリエイターも増えました。
その中でも写真作品を発信しているフォトグラファーは、今何を思い、どんな未来を思い描いているのでしょうか。

Instagramで活躍する約30人のフォトグラファーたちを閉館後の森美術館に招き、展示風景を撮影・シェアしてもらう「#empty(エンプティー)※」企画の第4回が開催され、kakeru編集部も参加することになりました。Instagramを中心とするSNSで活躍の幅を広げるクリエイターに、アンケート調査とインタビューを行いました。

※emptyとは…
閉館後の美術館でインスタグラマーたちが集ってアートを楽しむイベント。2013年にニューヨークのメトロポリタン美術館から始まり、今では世界各地で開催されています。

※#empty 企画に見る美術館とSNSのあり方は、前編記事をご覧ください。
https://kakeru.me/other/empty-1/

「自分らしい世界観」を叶えるアプリ

マイク・タイカ《私たちと彼ら》(部分)2018年
photo by

フィードは一眼レフ、ストーリーズはスマホなど、用途に合わせて機材を使い分ける参加者たち。

そんな彼らが、写真を撮影しSNSにアップするまでにどんなアプリを使っているのか、アンケートを実施。一番多かったのは、AdobeシリーズのLightroom。続いてVSCO、Photoshop、Snapseedなどでした。

簡単な操作で自分のこだわりを表現できる写真加工アプリが、上位にランクインする結果に。これらのアプリの特徴は、写真補正の細かな調整ができ、個別の設定をプリセットとして保存できるため、自分らしい世界観を表現するのに適しています。

「インスタグラマー」と呼ばれること

Instagram以外でも活動の幅を広げる彼らに、自分に肩書きをつけるとしたら何になるかを聞いてみました。回答として多かったのはフォトグラファー、次いでモデル、クリエイターなどの回答が寄せられました。

「#嫁グラフィーの人」や「写真展プロデューサー」など、自分の強みをオリジナルのキャッチコピーとして肩書きにする方も。

こうしてInstagramに留まらず、活躍の幅を広げている皆さんにとって、「インスタグラマー」と呼称されることについて違和感を感じるかも聞いてみました。

違和感があると回答した方からは、「Instagramで大きな影響力があるとは思っていない」「Instagram以外のSNSでも発信している」などの理由が挙がりました。一方で、「インスタグラマー」と呼ばれることに違和感がないと感じているhalnoさんにその理由を尋ねてみました。

──halnoさんは本業でアートディレクターとしてご活躍されながらも、フォトグラファーとしてテレビ出演などもされていて、Instagramに留まらず活躍の幅を広げていますよね。「インスタグラマー」と呼ばれることに違和感を感じないのは、どのような背景があるのでしょうか。

halnoさん:僕は「箒で空を飛ぶ写真」をInstagramに投稿したのが活動のきっかけなんです。Instagramがあったからこそ、今の自分があると思っています。愛着を持っているプラットフォームだからこそ、インスタグラマーと呼ばれることに違和感はありません。

──Instagramでの発信が活躍の幅を広げるきっかけだったからこそ、「インスタグラマー」と呼ばれることについて違和感が無いということですね。

halnoさん:そうなんです。おかげさまで、Instagramのフォロワー数も26.5万人を超えました。Instagramがあったからこそ多くの人に作品を届けられて、仕事の機会をいただき、人生が良い方向に変わったと思っています。ただ、絵を描いているときはインスタグラマーではなく、クリエイターとして活動しているので、発信内容によって肩書きは変わっていくものだと思っています。

プラットフォームによって作品の見せ方を変える

最近よく投稿するプラットフォームは、TwitterとInstagramのフィード、そしてストーリーズという回答結果が集まりました。

──フォトグラファーの窪倉直人さん()は、InstagramとTwitterを使い分けているそうですが、どのような使い分けをされていますか?

窪倉さん:僕は、Instagramをポートフォリオとして使っています。作品の空気感を伝えるためには、写真の統一感が大切。そのため、Instagramでは作品のテイストに合わせて色味を統一し、フィードが綺麗になるように心がけています。
一方でTwitterでは、日々撮ったものを気軽に投稿したり、自分の気持ちを呟いたりと、自由な使い方をしています。

──InstagramとTwitterで同じ写真を投稿することもありますか?

窪倉さん:TwitterとInstagramで同じ写真を投稿することもあります。しかし、作品の見せ方はプラットフォームに合わせて変えています。たとえば、縦長で撮影した写真はTwitterではそのままのサイズで投稿しています。

しかし、Instagramのフィードにこのまま投稿すると上下が切れてすべてを見せることはできないため、バランスを考えながらトリミングして投稿します。

──同じ写真作品でも、プラットフォームによって表現方法を最適化させるのは大切な心がけなんですね。

世界にも目を向けて──多種多様なソーシャルメディアをどう使いこなすのか

ヴァンサン・フルニエ《「マン・マシン」シリーズ》2009-2010年
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最近気になるプラットフォームは何かをお伺いした結果、42%がTwitterと回答しました。その次が同率で、Instagramのフィードとストーリーズという結果に。

この2つ以外にも、さまざまなソーシャルメディアで発信しているという横田裕市さん()さんに、最近気になるソーシャルメディアを聞いてみました。

──横田さんが活用しているソーシャルメディアと、最近気になるソーシャルメディアを教えてください。

横田さん:Twitterをメインに、Instagramから、note、LINEのOpenChatまで使っています。最近気になるのは、TikTokですね。

──TikTokはダンス動画の投稿が多い印象です。横田さんはフォトグラファーとしてTikTokにどのような可能性を感じていますか。

横田さん:風景写真と、映像や音を組み合わせた投稿をする予定です。TikTokは若者中心に爆発的に広がっていて、若手のクリエイターで作品を投稿している人も多いですよね。これから色々な投稿を見ながら、TikTokに力を入れていきたいです。

──横田さんはフィンランドやブータンの観光誘致プロジェクトに日本代表として参加されていますが、グローバル発信の秘訣は何でしょうか。

横田さん:世界に発信することは、ずっと心がけていますね。その心がけの1つとして、Bored Pandaというメディアで発信しています。

──初めて聞きました!どのような発信をされているのでしょうか。

横田さん:Bored Pandaはリトアニア発のユーザー投稿型のメディアです。「いいね」が多くつくことで、ランキングが上昇して、ユーザーの目に留まりやすくなります。その中でも、良質なコンテンツだと認められると編集部によりフューチャーページに掲載されます。それでさらに拡散される流れです。
Bored Panda自体、日本国内ではあまり知られてないかと思いますが、かなり拡散性の高いメディアだと実感しています。

──横田さんは、Bored Pandaでは、どのようなコンテンツを投稿しているのですか?

横田さんのBored Panda投稿「My 35 Best Pics That Convey The Beauty Of Japan

横田さん:自分の作品から厳選した、日本の風景のベストショットを掲載しています。海外の方に見てもらいやすく、「いいね」もつきやすいんです。フューチャーページにも何回か掲載していただいたのですが、そうすると海外のメディアから声がかかり仕事にも繋がります。仕事に繋がるチャンスのあるプラットフォームだと思っています。

フォトグラファーが見据えるSNSの未来

ミハエル・ハンスマイヤー《ムカルナスの変異》(部分)2019年
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Instagramの日本語版がリリースされて約6年。当時は「加工アプリ」でしたが、今では「日常をシェアするアプリ」へ変化しています。そんな時代の変遷に伴い写真加工もInstagramのアプリ内で完結せず、オリジナルの加工プリセットを作って表現する時代へ。表現の参考にしていると回答に挙がった『CURBON(https://www.curbon.jp/pages/curbon-lightroom-presets)』では、人気フォトグラファーによるLightroom プリセットの販売も手掛けています。

またインスタグラマーという肩書は、違和感がある人と、ない人の二極化。プラットフォームの多様化により、自己表現が変わってきている印象を受けました。

TikTok、WeChat、Weiboなど、中国発のSNSブームも一つのトレンド。横田裕市さんのように、いち早く海外のソーシャルメディアで発信することも大切なスキルの一つです。

プラットフォームの変化によって表現を変えるクリエイターたち。
kakeruは今後も引き続きクリエイターたちの生の声を聞いていきます!それでは、また。

▼メインビジュアル
ラファエル・ロサノ=ヘメル&クシュシトフ・ウディチコ
《ズーム・パビリオン》2015年
Courtesy: bitforms gallery, New York
▼展示風景
「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」森美術館(東京)2019-2020年

※この取材は2020年2月に実施しました

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