PRの”ストーリー”は誰の物語か?──PR TIMES小林保|パブリックファースト vol.5

2019 12.20

こんにちは、「PR TIMES」プランナーの小林です。

本連載では、「パブリックファースト」をテーマに、PR TIMESの各プランナーがデータや事例とともにPR・コミュニケーションについてご紹介しています。

今回のテーマは、マーケティングや近年はPR領域でもよく聞くようになった「ストーリー」

「機能ではなく、情緒的に訴求しよう!」と、企業の思いや背景をストーリー仕立てで発信することに注力するPR担当の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

PR TIMES上でも、「○○ 背景」と検索をすると様々な開発背景や経緯の企業発信を確認することができます。一方で、日々多くのストーリーが発信され、消費されているという現状もあります(消費すらされず、気づかれないことも…)。結局、誰の記憶にも残らないまま流れてしまう…、といったことが起こりえます。

企業の「ストーリー」は誰の物語なのか

企業のストーリーは、その企業が主役の物語です。企業が、どんな未来を目指し、それをどう実現していくのか、ストーリーの読み手にあたるステークホルダーたちへ伝える内容となります。ここで意識したいのは、この時点でのストーリーは、読み手からすると小説を読むかのような「第三者(=企業)の物語」であることです。

もちろん、この状態でも企業への興味関心の高さや係わりの強さ、ストーリー自体の面白さがあれば十分に届き、響くコンテンツとなったり、発信した実績自体の積み重ねが歴史となり企業の活動に深みが生まれる、といったメリットはありますが、もっと”読み手”の記憶に残る方法として、第三者ではなく「”読み手”自身の物語」とする、ナラティブへの変化があります。

ナラティブ(narattive)もストーリーも和訳すると「物語」なのですが、ナラティブは物語の中でも「自分語り」、つまり事実や経験に基づく「その人が主役の物語」です。

企業のストーリーを起点に、一人一人の物語へ

本来「ストーリー」は、時系列や人物、因果関係など意味のある要素が多く記憶されやすいものとされています。その中で、自分に意味のあると認識されたストーリーは、私たちの脳の中で「エピソード記憶」に分類され長期的な記憶となります。

エピソード記憶とは、「個人が経験した出来事に関する記憶」

脳科学辞典

自分に意味のあるストーリーと認識されるには、桃太郎や浦島太郎のような昔話のように何度も反復して見たり聞いたりしたものや、個人の思い出のように自分が経験し、感情が揺れ動いた出来事があります。

企業視点で当てはめると、何度も(時には形を変え)接触する機会をつくること、”読み手”の行動を促し、その人が主役の物語となる要素を提供すること、となります。こうして生まれた一人一人の物語と、企業のストーリーがコアとして融合することで企業イメージを一緒に形成していきます。

一人一人の物語が融合しないと、企業の言いたいことだけを言っているような発信に見えてしまうリスクがあります。「企業のストーリー」だけではなく一人一人の物語まで気を配り全体設計を描くことが、PR担当が今後より求められるストーリーテリングです。

体験を生む仕組みづくりで、物語を生みやすくする

このような一人一人の物語を生むためには、能動的な「体験」が必要になります。これは前回特集した「ポップアップストア」もそのひとつです。企業の本来伝えたいストーリーを、個人の体験を経由しナラティブにする仕組みで、「エピソード記憶」として残す狙いがあります。

事例:キールズが原宿で2日間限定の「MADE BETTER MARKET」を開催!スキンケアから、アースケアをはじめよう。

PR TIMESから引用

たとえばキールズのポップアップストア「MADE BETTER MARKET」では、参加者の名前や構成要素、地球へのやさしさ度がプリントされたオリジナルラベルの化粧水づくりが体験できます。こうしたパーソナライズされたコンテンツはその人の物語として機能しやすく、結果的に記憶に残りやすくなります。

事例:クラウドファンディングのプレスリリース

他にもクラウドファンディングのような参加型も能動的な体験の例です。背景情報を含むストーリーへの共感・賛同、出資額を決める過程と決断、プロジェクトへ参加したという当事者意識、クラウドファンディングの結果、最終的な結末、など当事者としてスタートからゴールまで巻き込める仕組みです。

近い体験では、「価格自由」という仕組みもあります。購入後に価格を決めるという、本を読むだけではない、価格を決定するという能動的な体験が内包されています。

▶▶『クラウドファンディング』に関するプレスリリース一覧

事例:D2Cアパレルブランド『FouFou』

D2C アパレルブランド『FouFou』の事例です。服は買うこと・着ること自体が体験でもあり、そして思い入れのある服を着て起きた出来事もストーリーとなりえます。だからこそプロダクトにこだわることで、そこから個人のストーリーが生まれます。FouFouの面白い所はプロダクトへのこだわりのためにターゲットを絞り、そしてそれをオープンにしている所です。自分たちのブランドが、どんな人たちの生活に溶け込み、ストーリーを生むのか、そこを考え抜かれているように感じます。

事例:インドの紅茶ブランド「MANJUSHREE」

少し古い事例ですが、海外からも紹介します。インドの紅茶ブランド「MANJUSHREE」が、紅茶好きは”一杯の紅茶と良質な物語”が何よりの喜びである、というメッセージを体現すべく、紅茶の湯気で短編物語が浮かび上がる仕掛けをパッケージに施しました。

湯気にかざして物語が浮かばせるという行為や、紅茶を飲みながら良質な物語を読む、といつもよりも特別な体験へと昇華させています。

事例:紙パッケージで作る「お守り」で「キット、願いかなう。」

PR TIMESから引用

国内のパッケージでの定番だと、キットカットの事例があります。毎年、もはやお馴染みともいえる「キット勝っとお」に由来する(九州の方言)、受験の必勝祈願に絡めた企画です。頑張る人を応援するブランド、として様々な企画を生んでいますが、今年はパッケージを折るとお守りになる、という仕掛けに。もちろん個別包装にはメッセージ欄もあり、それぞれ一人一人の物語化を後押しする形となっています。

このように、企業やブランドのPR担当にとってのストーリーは、製品開発の背景や担当者の思いといったファクトの整理と構成だけでなく、そのストーリーを伝えること、その先にどのような「一人一人の物語」が生まれるのか、ここまでを丁寧に考える必要があります。そして、その物語がハッピーエンドなら最高だし、バッドエンドを迎える人がいるのであればどこかがおかしいと考えるべきです。 

どんな物語を一人一人が生むか考えるには、その人たちのことをできる限り知る必要があります。次回は、その一助となるように「インサイト編に寄り添ったPR事例」をお届けします。


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