「恋と呼ぶには淡すぎる」あとがき|カツセマサヒコ作

2016 12.9

「恋と呼ぶには淡すぎる」 あとがき

「恋愛小説を書いてください!」

と、フェイスブックにメッセージをくれたのが、kakeruの副編集長こと、三川さんだった。 

三川さんと仕事をするのはこれが初めてだったのだけれど、メッセをくれた時点で彼女の頭の中には、「iPhoneのメモ帳が、そのまま記事になっている」というアイデアが浮かんでいて、僕はその試みがとても気に入ったので、一度会って詳細を詰めることになった。(アイデアを持っている編集者は、本当に書き手をワクワクさせます)

打ち合わせをするまでは、「一話完結の小説を、週1回更新」という前提で話が進んでいたのだけれど、顔を合わせて話を進めていくなかで、いつの間にか「朝ドラみたいに、毎朝ちょっとずつ更新したら面白いんじゃないか」という話になり、結果的に「一つの物語を5日に分けて、朝の通勤・通学時間帯に連続公開」というかたちに落ち着いた。(ここから「朝ドラ小説」という仮名が付く)

主人公のモヤシとミナの設定については、最初は「SCOOP」の福山雅治と二階堂ふみをイメージしていて、かなり歳の差のあるコンビにしようと思っていた。主人公はおっさんで機械オンチ。そこを女子大生の二階堂ふみがカバーするという前提で、たまに「だからSNSなんかに頼るなって言ったろ」てな具合で、おっさんの福山がSNSの届かない領域で活躍するのがカッコいいのではないかと話をしたのを覚えている。

でも、原稿を書きだす段階で「あれ、誰目線で書こう?」と疑問に思い、三川さんに改めて相談したところ、いつの間にか「女子大生と、絶滅危惧種っぽい草食男子」という今ドキの王道コンセプトに変更され、さらに「できるだけ男子をイケメンに描くことでキュンキュンさせて!」というオーダーから、女性目線で書くことになった。

あとは書き始めるだけだったのだけれど、どうにももう一個ぐらいフックがないと、パっとしない作品になるよなあと思い、そこからモヤモヤしている時間が長かった。そして「カツセさん、まだですか」と三川さんが鬼の形相になりつつあるころに、ようやく「主人公が携帯電話を持っていない」という設定が浮かんだ。

実は、この「携帯電話を持っていない男」という設定にはきちんとモチーフとなる人物がいて、僕はその人に直接お会いしたことはないのだけれど、名古屋にいる男性美容師であるHさんという人物がそれにあたる。たまたま出席した飲みの場でその人の話題が出て、「本当にipadだけで暮らしてるんだよ、まいっちゃうよ。でも、意外と生きていけちゃうみたいなんだよね」と話を聞いたことが、そのままモヤシにトレースされることになった。(名古屋の美容師のHさん、ありがとうございました)

こうして設定が出揃うとあとは書くだけとなり、①出会う、②仲良くなる、③キュンキュンがピーク、④不穏なムード、⑤バッドエンド という構成だけは既に三川さんと話して決めていたので、進行を崩さないように次の話とのつながりを意識しながら書いていった。メモ帳をキャプチャする関係で文字数指定が雑誌ばりに細かくなったのだけれど、改ページを入れるタイミングを練りながらテキストを作っていく作業はそんなに嫌いじゃなかった。

フタを開けてみると、モヤシには「エイジ」という本名が付き、そこに『サイコメトラーエイジ』が連想されたことから勝手に「漫画好き」というオプション設定が追加され、さらには漫画好きという一面から、少し明るい少年のような雰囲気も備えるようになった。一方でミナは、僕の中での「強気なJKもしくはJD」のイメージをそのまま具体的にしただけのような人物なので、これといって面白みのないキャラクターになってしまったと後悔している。(もう少し何か設定を付けてあげればよかったのだけれど、「電車ひと駅ぶんでサクっと読める」というコンセプトを考えると、載せすぎは良くないと自分に言い聞かせた)

後悔といえば、モヤシの設定も「草食」であるはずがどんどん肉食要素が飛び出して、「がっつりエスコートしとるやん」と総ツッコミを受けることとなってしまったし、ミナがモヤシを好きになるタイミング(第2話あたり)も展開が早すぎるし、そもそも5話完結で出会いから死別まで描くにはどうしても内容が浅くなりがちだったし、今振り返ってみると反省ばかりの作品となっている。

とはいえ、「活字が苦手なJKでも通学途中に楽しめるような作品」というテーマに忠実に則した、簡潔な表現とリズムの良さだけを重視したシンプルな小説を書くという意味では、初めてにしては楽しめたことが多いし、反省した点は全て次回どこかで試せばいいかと思えるところもあったので、結果的には満足している。

うん。最後まで自分のことばかり書いたので、最後の最後くらいは読者の皆さんにお礼を言わせてください。たくさんの人に読んでもらえて、ノリで始めた「#恋あわ」というハッシュタグにもたくさんのコメント(本当にたくさん来たんです、びっくりしました)が集まって、さまざまな叱咤激励(と嫌味)をいただけて、嬉しかったです。とくに、いつも記事やツイートを読んでくれていたフォロワーさんたちと、たくさんの助言と進捗確認をくれた三川さんに救われました。ありがとうございました。

ということで、本編より長くなったくだらないあとがきを終わりにしたいと思います。「恋と呼ぶには淡すぎる」を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

カツセマサヒコ

↓全話こちらから読めます


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