歌手、作曲家、ナレーター、菓子職人?肩書き不要。いつまでも「自由人」でいたい──ルシュカ|INSIDEHEAD vol.2

2019 9.4

インターネットが当たり前になった今、SNSを通じさまざまなクリエイターが生み出す作品に出会う機会が増えました。

誰でも表現できる時代、活躍するクリエイターには、他の人と異なる何があるのか──。クリエイターが作品を生み出すまでの過程やアイデアの源泉を覗くために、kakeruではその“頭のなか”を掘り下げていく連載「INSIDE HEAD(インサイド ヘッド)」を展開しています。初回の白水桃花さんに続き、第2回目ではルシュカさんにお話を伺いました。

東京藝術大学を卒業後、フリーランスの歌手、作曲家、ナレーター、菓子職人などとしても活動。アニメ『東京喰種トーキョーグール』の劇中歌を歌ったり、Voicyで『スポニチ公式ニュース』『英語をまなばナイト』のパーソナリティを務めたりするなど、その実力もたしかなもの。類まれなるバイタリティを持ち、さまざまなジャンルで活躍されているルシュカさん。その根底に通ずる思いは、いったい何なのでしょうか?

<プロフィール>ルシュカ。歌手、作曲家、ナレーター、菓子職人など、さまざまなジャンルで活躍するマルチクリエイター。東京藝術大学在学中、ニコニコ動画でボーカロイド等の曲を英語に訳して歌う動画で人気を博し、「ルシュカ」としての活動を開始した。
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歌って、作曲して、ナレーションして、お菓子を作る?

── 今日はよろしくお願いします!

ルシュカ:よろしくお願いします。

── さっそくですが、ルシュカさんって本当にいろんなことをされていて、何者なのか実態が掴めないんです(笑)。一体、今は何をされているんですか?

ルシュカ:今は、平日は外資系企業で会社員としてフルタイムで働いているんです。それに加えて、会社以外の時間を使って、歌手活動やCM曲の作曲などのお仕事を受けていますね。

── Voicyの配信などもされていると思いますが、あれは?

ルシュカ:Voicyは、音楽活動の延長で、声を使った仕事としてナレーションに興味を持って育成学校に通い、オーディションを受けてVoicyの『スポニチ公式ニュース』のパーソナリティを担当することになったんです。そこからVoicyの運営の方からお声がけいただき、『英語をまなばナイト』という個人チャンネルもはじめました。

── 「ルシュカフェ」というポップアップのカフェも定期的に運営されていますよね。

ルシュカ:あれは、Twitterで料理写真をあげていたら雑誌でコーナーを持つことになり、実店舗も——となってイベント化したものです。お菓子づくりは、5年ほど前にハマって製菓学校に通い、2年半ほど週1でお店でも働いていました。

ルシュカフェ

── 掘れば掘るほど、エピソードが出てきますね。そしてどれも、一度やり始めたら突き詰めていらっしゃるのがすごいです……。ものすごくお忙しそうですね。

ルシュカ:でも、意外とまったりしているんですよ。今日も午前中は洗濯物しかしていないくらい(笑)。

── 本当ですか?(笑) 今日はそんなルシュカさんの頭のなかを、ぜひ、覗かせてください。

ルシュカ:はい、ぜひ。

「音楽で人を救いたい」という思いが原点

── 現在幅広く活動されていると思いますが、最初に「ルシュカ」として活動をはじめたきっかけは何だったんですか?

ルシュカ:ルシュカとして活動をはじめたのは、ニコニコ動画(以下:ニコ動)で歌い手を始めたことがきっかけですね。

私は東京藝術大学で音楽を学んでいたのですが、そこで出会った先輩が、ニコ動でドラムの動画をアップしていたんです。それを見て「おもしろそう、私もやる!」という感じではじめました。その時につけたハンドルネームが「ルシュカ」だったんです。

── ニコ動でのルシュカさんの動画といえば、ボーカロイドなどの曲を英語でカバーしたものだと思います。最初から英語で歌った曲をアップしていたんですか?

ルシュカ:はい。英語で歌っている女性の歌い手がほとんどいなかったので、「ここだ」と思ってはじめたんです。でも、戦略的にというよりは、ニコ動にはクオリティが高い歌い手がたくさんいたので、「この中に自分が飛び込むとなったら、歌声だけで勝負するのは難しい」と自然に思うようになった結果です。もともとニコ動のリスナーで、いろんな動画を見ていたことが影響しているかもしれません。

── そもそも、東京藝大で音楽を学ぼうと思われたのは、どうしてだったんでしょうか。

ルシュカ:幼い頃から音楽がすごく好きだったんですが、中学生の頃にアヴリル・ラヴィーンをきっかけに洋楽にハマり……。その時「救われている感」があったんです。嫌なことがあっても、ライブに行ってはしゃいだり、大声を出して歌ったりしていたら、自然と元気になれるじゃないですか。

世の中には鬱々としている人たちがいて、薬に頼る方法もある。けれど、そういうメディカルな方向じゃなくても元気になれるっていいなあと思って。それで、「私も音楽で人を救いたいな」と漠然と思うようになったんです。

── そこで「音楽を生み出す道」を選んだと。

ルシュカ:当時の私が思いついたのが、精神科医になるか、プレイヤーになるかの2つの選択肢でした。理系が苦手だから医者にはなれないな……と思い、必然的に音大を目指すことにしたんです。

「ひとつを極める」より「複数の掛け合わせ」で個性を出す

── 大学では具体的にどんなことを学ばれていたんでしょうか?

ルシュカ:「音楽環境創造科」という、音楽に関わるさまざまな隣接分野を横断的に学べる、いわば「なんでもあり」の学科に入学しました。録音やミキシングなどの音響的なこと、作曲やDTM(デスクトップミュージック)、ピアノや声楽など、本当に幅広く音楽について学んでいましたね。

── そのかたわらで、ニコ動の歌い手としての活動もされていた。

ルシュカ:はい。思いのほか反響が得られ、動画の再生数も伸び、ライブハウスなど舞台に立たせていただく機会が増えていきました。学校での勉強も楽しかったのですが、徐々にアカデミックではない音楽に惹かれていきましたね。

── 大学ではいろんなことを学ばれたとおっしゃっていましたが、どれかひとつを極めようと思わなかったんですか?

ルシュカ:うーん。あまり思いませんでした。結局どの道も、極めようと思ったらキリがないなと思ったんです。大学やニコ動で、圧倒的な才能を持つ人たちを目の当たりにしていて、その人たちの尋常じゃない努力をしているのも知っていたので、「かなわないな」という気持ちがどこかにあったんだと思います。だったら得意なものを組み合わせていこう、と。

いませんか? たとえばライターさんでも、「この人にはかなわないな」と思う人。

── います、います。

ルシュカ:そういった、「ある種の絶望感」を感じる瞬間が私にもあって。気づいたら複数のかけあわせで勝負するようになっていました。

── 今のルシュカさんのスタンスにも通ずるところがありそうですね。

掛け合わせられる環境に身を置き、音楽だけではない道へ

── とはいえ、そのまま音楽の道には行かず就職されています。なぜあえて副業というスタイルを選ばれたのでしょうか?

ルシュカ:実は、大学卒業後2ヶ月ほどはフリーランスで音楽活動をしていたんです。もともと藝大ということもあり、“就活”といった文化もほぼなく、「フリーでも食べていけるな」と思っていました。ただ、ふと「半年後に仕事ってあるのかな……?」と思い、仕事をしつつ音楽もできるような会社に就職しようと思ったんです。

── ある意味、それも掛け合わせるスタンスかもしれませんね。会社を探す際の条件や希望はあったんですか?

ルシュカ:特に職種などにこだわりはなかったのですが、音楽との両立をしたかったので、自由度のある場所がいいなとは思っていましたね。その点、今の会社は自由度がかなりあったので、音楽はもちろん、ほかに興味があるものに出会ったときも、突き詰められたんだと思います。

── それは、お菓子づくりやナレーションのこと?

ルシュカ:はい。いずれも、自分の衝動に正直でいられる自由な環境だったからこそ、できたことだと思います。

あとは、会社にはおもしろい人がとても多かったんです。自由度があるからこそ、私のようにマルチでいろいろなお仕事をしている人も多いんです。副業でカメラマンをしている人や映像を作ってる人、プロのナレーター、300万円くらいする珈琲の焙煎機を持っているほど珈琲マニアな人など……。そういう人に出会うたびに、どんどん自分の興味関心の幅が広がってきたように思います。

フリーで受けているテレビCMやナレーションの仕事も、今の会社で出会った人と一緒にやっているものもあるんですよ。

「やりたい」と思ったことは全部。バットをとにかく振りまくる

── いい環境が、挑戦へと突き動かしてくれているんですね。とはいえ、お菓子づくりやナレーションなど、やりたいなと思ったことを、全部中途半端ではなく「突き詰めている」のがすごいですよね。

ルシュカ:いえ、全部が全部突き詰めたわけじゃないんですよ。途中で向いてなくてやめたものもたくさんあるんです。

たとえば、DIYやインテリアコーディネートなどにも一時期ハマりかけたんですが、向いてなくて全然続きませんでした。カメラも興味はあるんですが、沼に入る手前くらいで満足しました(笑)。

── では、たくさんバットを振ってみて、当たったものが今残っている感じなんですね。

ルシュカ:そうですね。バットを振る回数と速度はものすごく多く、速いかもしれないです。おもしろい人たちに出会って、「やりたい!」と思ったら、すぐに真似して始めちゃう(笑)。

── その「まずはやってみる」精神ってどこからきてるのでしょうか? なかなかはじめられない、やってみるのが怖いと思う人もいると思うんですが。

ルシュカ:どこからだろう……。でも、「成功体験」みたいなものが積み重なっているからこそ挑戦できるのかもしれません。音大受験や、ニコ動での経験など、やってみた結果うまくいったことが多かった。「やってみて悪いことはない」というマインドが身に染みついているんだと思います。

そういう「小さな成功体験」を積み重ねることが、やってみる挑戦心を鍛えるのには大事なのかもしれませんね。

「ルシュカ」の見せ方にはこだわらない。いつまでも「自由人」でいたい

── とはいえ、ニコニコの頃から応援してくれている方からすると、SNSのアカウントを追っていると、突然お菓子を作り出したり、ナレーションをし出したりと様々な“面”を見ることになると思います。「ルシュカ」としての見せ方にこだわりなどはあるのでしょうか?

ルシュカ:特にないですね。そのときにやりたいと思ったものをやる。やるからにはとことんやる。その結果、応援してくれる人が増えたらいいなと。

── では、「ファンのために」とかはあまり考えない?

ルシュカ:どちからというと、実は考えてないのかもしれないですね…。もちろん、何かの刺激になったらいいなとは思いますけど、それも結局私のエゴでしかないので。相手に押し付けたくないという思いが大きいです。

よく「SNSでフォロワーを増やすには」みたいな方法論で「専門分野に特化しよう」みたいな内容を見かけますが、それが私の生き方の対極なんです。

そうではなく、「たまたま自分が好きなことをやっていたら、フォロワーさんがついてくれていた」という状況の方が、フレキシブルに動けるし、本当の自分に近いので、私は好きです。

── では、SNS上での人格と、実際のルシュカさんの人格はけっこう紐づいているんですか?

ルシュカ:そうですね。そこで着飾っちゃうと、自分が苦しくなるので。

── すると、一言でいうならばルシュカとは何者なのでしょうか?ここまでお話を伺っていても、適切に言うのが難しいなと思い(笑)。

ルシュカ:たしかに。なんだろう…。「自由人」……とかですかね?(笑)Voicyで肩書きを求められたときは、たしか「マルチクリエイター」と言っていたと思います。

でも私自身は、肩書きがなくても別にいい。それか、場面ごとに変えてもいいかなと思っていて、Voicyだったら「英語指導者」、劇伴の仕事をやっているときは「歌手」、会社員のときは「会社員」。

── 自分の中にはいろんな面があるから、場面に合わせてその時々にちょうどいい肩書きで説明していく、と。

ルシュカ:そうです。だって、お菓子屋さんで働いているときに「英語を話せる」「音楽もできる」なんて言わなくてもいいじゃないですか?(笑) すべてを一度に説明する肩書きをつくることは無理だから、来るべきときに理解してもらえたらいいかなあと。

── たしかに。「自由人」という言葉が、私はルシュカさんにぴったりな気がします。

ルシュカ:ありがとうございます。昔YouTubeに、「好きなことで、生きていく」という広告があったじゃないですか? 私は、人生を通してあれを体現している感じはします。

今も、本とレシピが一体化した、絵本のようなものをつくりたかったり、ナレーションの仕事をもっとしたかったり、海外でも働きたかったり。やりたいことはたくさんあるんです。これからも、自由に、やりたいことを突き詰めながら、人生を楽しんでいきたいですね。

「等身大でいられること」のカッコよさ

ルシュカさんにお話を伺って、どこまでも自由で、等身大で、ヘルシーな方だという印象を受けました。

もちろん好きなことを突き詰める集中力や努力は並大抵のものではないのだろうけれど、それが「無理やり」ではなくあくまでも「自然」だからこそ、威圧感がないし、やさしい雰囲気に包まれている──。

SNSなどでは、よくも悪くも周りが何をしているのかが見えてしまうので、どうしても誰かと「比較」をしてしまいがち。でも、誰かと比べるのではなく、自分が見たもの、出会った人、そこで感じたことを原動力にして動くルシュカさんの芯のある生き方は、一本の太い茎で大きな花を支える向日葵のようだと思いました。

誰かのためじゃなく、自分のために生きる。そうやって生み出されたクリエーションが、結果的に誰かの心を強く動かしているのかもしれません。


Interviewer あかしゆか小山和之
Writer あかしゆか
Editor 小山和之
Photo きょーいち
Design 會川誠也
Support 酒井大輔 今城加奈子


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